「日葵!」

浅く早い呼吸・・・いわゆる過換気状態になり意識を失いそうになっていた日葵の耳もとに、陽生の声が届いた。

「日葵、日葵、大丈夫。俺が側にいる。もう大丈夫だ」

「は、陽生さん・・・」

目の前には確かに大好きで頼りがいのある日葵の夫がいた。

これほどの安堵を得たのは生まれて初めてかもしれない。

「・・・待ちくたびれたよ・・・」

憎まれ口が叩ける自分に、日葵は少なからずホッとしていた。

「ごめん。日葵、ごめんな。一人にして」

見上げた陽生の目には、うっすらと涙が浮かんでいるようにみえた。

「だけど、帰ってきてくれて・・・本当に良かった・・・」

差し迫る痛みに耐えながらも、日葵は微笑んで陽生の腕に手を伸ばした。

「そ、そうだ・・・。もう、赤ちゃんの頭が・・・」

日葵の言葉に、陽生は呆然とする。

後ろに立っていた勇気はどうしていいかわからずオロオロするばかりだ。

「産婦人科は?電話したのか?」

「それが、話し中なのか繋がらなくて。陣痛も15分おきだったし・・・病院に行っていいかもわからなくて・・・そのうちにお産が進んじゃったの・・・うっ・・・」

「救急車が呼んでもここまで数十分はかかる。先生を呼んできた方が早いな。・・・柊、行けるか?」

「バゥ!」

陽生はメモを取り出し何かを書き込んだ。

その紙を柊の首にくくりつけると

「柊、頼んだぞ」

と頭を撫でながら指令を出した。

柊は、颯爽と縁側を駆けおりると一目散に目的地に駆けていった。