策士な課長と秘めてる彼女 ~出産編・育児編~
「あきれてものが言えませんね」

「あら、陽生さんは何も言う必要はないわよ。
ねえ、日葵さん、あなた顔色が悪いわ。
もうずっと眠れていないんでしょう?
お乳をあげる以外は少しでも寝ていてちょうだい。
私達が交代で美暖ちゃんを見ていてあげるから」

あきれ顔の陽生と違い、日葵にとって真佐子の申し出は、正直ありがたかった。

この1週間、慣れない子育てに体も心も悲鳴をあげていた。

仕事と両立させようとする陽生のことも心配だったし、なんなら日葵自身がお産前に受けていた仕事のことも気になる。

そんな日葵の焦る気持ちが伝わるのか、泣き出したらなかなか泣き止もうとしない美暖に、日葵もいつしかイライラがつのってきていた。

そのことを自覚し不安を覚えはじめていた矢先。

義父母の申し出は神からの救いだった。

我が子を可愛いと思うことと、全てを受け入れてお世話に没頭できることは違う。

産後の不安定なホルモンバランスは、温厚な日葵の性格すらも歪ませつつあった。

ゴールの見えない闇に吸い込まれていきそうな果てしのない育児。

「ほら、そんな泣きそうな顔をしなくても大丈夫よ。みんな同じ道をたどってきたの。誰かに頼るのは弱さではないわ」

真佐子の言葉に日葵の涙腺が崩壊する。

「お義母さん・・・あり、がとう、ございます」

暖かい真佐子の胸に抱かれて、日葵は声も出さずに泣いていた。

本当は自宅分娩になったあの日から、ずっと、ずっと不安だった。

だけど、陽生を心配させまいと日葵も知らず知らずに気を張っていた。

優しくも力強い家族の愛情に、日葵は心の底から安堵してあの日以来初めての涙を見せていた。

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