公開告白される君と3日間の旅 ~夏休みは境界

ジェラシーと来る、予言

部屋の入口 横には、
小さな 洗面台があるから、
ユキノジョウと ユリヤは
手を まず洗う。

「ユキ君、ハンカチいる?」

先に 洗い 終わって、
手を ブラブラしている
ユキノジョウに、ユリヤが
ポケットから ハンカチを 渡した。

「いるー。ありがとう。」

春に入る前に、 新型ウイルスが
大流行してから、特に除菌が
言われるように なった。

体験した事のない 新型ウイルス
出現で、日本中で 会社や学校が
休みになったからだ。

ユキノジョウは、ユリヤに
ハンカチを返して、除菌の薬を
ぐりぐり 手にもみこんだ。

『副女さん、コーヒー出来ました。』

図書委員のお母さんが、
コーヒーカップと フレッシュと
シュガーを盆にのせて、
ユキノジョウの前を 通りすぎる。

「ありがとうございます。
よければ、会計男さんの手土産、
みなさんも食べてください。」

『キャー!ここのバターサンド、
可愛いやんね!雑誌よく出てる
とこやん。』

『プール当番より、役得ー』

出されたスイーツ箱に、
わらわらと 図書委員のお母さん達が集まって、色とりどりの カラー
シールの丸いサンドを見比べ始めた。

「2人のは、こっちの 箱から
どうぞ。宿題 し ながらで。」

もう1つ出された 箱にも、
バターサンドが 20個入っていて、パッケージは 外国のチーズ
みたいだ。うまそう。

「会計男さん、いつも手土産持って 来てくれるし、どれも うまいし、
なんか、オシャレな。ユリ、それ
半分 替っこして。」

ユキノジョウは、早速 チョコレートオレンジ味のアルミを外して、
真ん中でわった。

「チョコカシス味だよ。」

と、ユリヤも 手にしたサンドを
わって、ユキノジョウに 半分渡した。

モグモグさせながら、
2人は 長机の島の1つに
ランドセルを 広げ、宿題を する。

部屋の 後ろは 1面本棚に
なっていて、寄贈の 本が並ぶ。
それを 使って、PTA図書 として
開いている。

学校の 図書室と ちがって、
大人なタイトルが 並んでいるし、
映像も並んでいる。
予算内で、リクエストした
タイトルが 毎月 増えるから、
図書解放は いつも 大人気だ。

そして、今日は運動場で
子供会がする夏祭りに、
レンタルする 浴衣もあって、
部屋は いつもより カラフル。


『あー、もう 本当 今日から
夏休み。お昼 ご飯、どうしよ。』

『本当!今日は、夜ごはんは、
祭で 食べとって 言っといたわ。
子供会で 屋台 あるし。』

『あそこん とこ、フランクフルト
やるん?』

『あ、これ。貸してくれる浴衣!』

図書解放 も、お母さん達の
しゃべり会な だけどな。
ユキノジョウは、となりの
ユリヤを ソッと わからないようにして 見てる。

まだ、モグモグしとんな。

「多かったら、おいとったら?」

「うん。美味しい。」

ユリヤは、頭がいい。
6年 だから、きっと 学校で
1番頭がいい。

運動は 苦手。でも、努力する。
食べるのも 早くない。←それが、
多く かむから、頭が いい事になるらしいって、会計男さんは言う。

会計男さんは、弁護士だから、
オレは 信用できる。
ついでに言うと、
奥さんは 検事で、怒ると、
ピアノをめちゃくちゃひく。
こわい。 ドラマみたい。

あと ユリヤは、色が白い。
いやされる。だから、
モテルはず。

あ、サンド 飲みこんだな。

でも、ユリヤは 1年生の時から、
同学の シンギに 毎週、告白されてきたから、他の男子はユリヤには
あまり、しゃべらないから、
ほんとのとこ、わからない。

『ガラガラガラ~』
『図書の本返しまーす。』

開いたドアから、またお母さん達と、けっこう 子供達が 入ってきた。
それに、

「暑っつー。夏場の階段、4階はきっつー。副女さん!管理職さん、教職員さん、用務員さん、
給食調理師さん、学童の 先生に、
挨拶品は 渡しましたー。あ、
これ 保健の 先生から。」

大きく 開いた ドアの最後に、
入ってきたのは、事務さん。
この ベリーショートの 熟女は
学校の 生き字引?だ。
昔は、ゴリゴリ ヤンキーだって。


出した 手には紙袋を さげている。
それを、開けつつ 聞くのは
ユリヤの母親、副女さん。

「ありがとうございます。して、下は 問題なく?」

ユリヤの母、副女さんは
事務さんを、『オンミツ』にしている。大切な 任務だ。

「問題 なしかな。言うても、
こんだけ 夏休みが 少ないのも、
祭が 今年は 1日なんも、プール
学習も ギリギリ、サプライズ花火
の噂もあるし、もう!バタバタ
やけどね!」

事務さんには、
副女さんが コーヒーを入れて
いつも 大事そうに 渡す。
このコーヒーも、京都の専門店。

これも、大事だとか。
香りが違うって。
オレでも わかる。だって、この
コーヒーの香りしたら、
部屋に 誰かいてる 合図だ。


「お疲れ様。あと、祭で使う、
挨拶品も 確認しました。さすが。
なんで、そろそろ、私も 浴衣に
着替えて、会長と1度合流します。
あ、事務さん、これ会計男さん
から 差し入れの バターサンド。」

高そうーと、言いながら
事務さんは 箱のサンドを
探っている。

ユキノジョウは 壁の時計を 見た。
もうすぐしたら、
役員が 集合する時間だ。

『ガラガラガラ~』

「お疲れ様 です。防災品の入れ
替え終わりましたよ。
あ!事務さん、差し入れ食べて
くれてますね。」

勝負スーツの上着を 片手に、
会計男さんは ユキノジョウと
ユリヤの 机島に 来て 座る。

「2人とも、ちゃんと宿題して
ますね。他の子達も 上がって
きます?差し入れ 足りるかな。」

事務さんが、コーヒーとバター
サンドを 会計男さんの 前に
コトリと 置く。

『会計男さんー、バターサンド
美味しく頂いてますー。』

後ろの 図書委員さん達が
声を かけてきた。イケオジ
会計男さん、今日も 人気だ。

会計男さんも、
『どーいたし まして。』
と手を 振っている。

ユキノジョウは、事務さんが
言った『花火』が 気になって
いたから、向かいに 座る
会計男さん に聞く。

「花火って あるの?」

「自粛で出来なかった 花火大会の
花火を上げる、『サプライズ花火』なんで、場所も、時間も
わかりませんよ。」

会計男さんは、自分が 差し入れた、ラムフルーツサンドを
食べてながら、ユキノジョウに
答えてくれた。


「ユリヤも、ユキノジョウくんも
宿題 できたら、上がってくる
アコちゃんと 浴衣着付けするから、よろしく。」

そう言うと、副女さんは 浴衣を
手にして 今度は、更衣室に 消えた。
今から 浴衣を 着付けるんだろう。

『ガラガラガラ~』

また ドアが開いて、入ってきたのは、

浴衣姿の 5年男子 トウヤと、
母親の 会計女さん。

それと、
浴衣姿の 6年女子 アゲハと
弟4年 ツバサ、
母親の 総合女委員←総女さん。
体育館でワックスモップ指示の人。
ここらでは油引きって、言うけど。

トウヤ、アゲハ、ツバサは
当然の 様に ユキノジョウと、
ユリヤの 机島にやって来た。

トウヤが、

「ユキノジョウ、祭あんのに、
宿題かよ!まだ 浴衣着ない のか?」

いっちょまえに 腕を組んで、
からむんだよ、こいつ。

ユキノジョウは、背が低いし、
お母さん達に 言われるのは、
アイドル 可愛い顔で、うれしくない。

トウヤは、背が高くて、
つり目のカッコいい顔。
で同学に、彼女いる。

「もう着替えるって。て、トウヤなんで、折りたたみイス持ってるん?」

トウヤの組んだ 腕のわきに、
小さな イスが見えた。

「オレ、花火組~。彼女にイス
持って行けって、母さんが うるさい。ユキノジョウ知ってるか?!中突堤で サプライズ花火、あるってよ!」

ムカつく。
そうなんだ、トウヤは彼女、
アゲハも 彼氏がいる。

うちの学校は カップル率が 高い。
それもあの、公開告白をする
シンギのせいだと
ユキノジョウは 思っている。

なんなんだ。

アゲハと 弟のツバサは、
ユリヤに浴衣が 似合っている
かを、やたら 聞いていて、
困らせているし。

てか、ツバサも モテるくせに、
なんで 年上スキ なんだよ。

せっかく、2人の宿題を
ジャマするな だし。

もう、ごちゃごちゃしていて、
うるさいしなあと、
ユキノジョウが 思っていたら、

『ガラガラガラ~』

また、ドアが開いて、

「失礼します。会長さんは、
こちらですかな?」

そう言いながら 入ってきたのは
長身の男の人、市会議員さん。

ユキノジョウは イヤな顔をする。

市会議員さんは、シンギの父親で、その後ろに シンギが浴衣で
立っているのが 見えたから。

今まで、シンギは ここに
上がって来た 事がない。

おまえ、何しに来たんだ。

ユキノジョウは、ユリヤを探す
シンギを ジッと 見つめる。

その市会議員さんの 声に、
ユリヤの母親、副女さんが
更衣室から

「足を運んで 頂き、有り難うございます。あいにく、会長は まだ他校の 挨拶周りに 出てますので、よろしければ 後程 本部テントまで挨拶に 参らせます。」

と言いながら、
監査女さんと 現れた。浴衣だ。

部屋の 空気が変わる。
ユキノジョウの 考えすぎかも?

うちの学校で 委員をした お母さん達は、『監査女さんの事』を
知っているからか?

事務さんが、市会議員さんに
コーヒーとサンドを出して、
すごく話かけている。
会計男さんや、他の役員さんも、シンギの父親に 挨拶している。

ユキノジョウは 背中が寒い。

監査女さんは
市会議員さんの斜め上を 見ているから。

それに、
副女さんが、監査女さんに

『どう?』

『そうですね。落ちる太陽ですか?』

監査女さんが、副女さんを見つめたのが、ユキノジョウにはわかる。

『それは、こちら?』

『夢の後、血の汗ですね、心して下さい。』

その監査女さんの言葉に、
ユリヤの母親、副女さんは 一瞬
目を大きくして。

『とうとう。か。』


ユリヤの 母親、副女さんは
そう 小さい声で 言うと、

まちがいなく
ユキノジョウに、優しく 笑った。




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