九羊の一毛


このままゴールまで行けるんじゃないか、と思った矢先だった。

行く手を阻む相手チームのディフェンス。
立ち止まってボールを守っていると、岬の声が飛んでくる。


「玄! こっち!」


試合終了まであと何秒だ? 時間がない。どうする。
パスを出しても、バスケ部のエースとして要注意人物に認定されている岬にはマークがびっちりついているし、かといって。

空虚を睨む。遠いゴールに尻込みしていた時だった。


「狼谷くん! シュート――――!」


体育館の天井を突き抜けるかのような清々しい叫び声。
吸い寄せられるように、声の主の方へ視線を投げる。

胸の前で固く握った拳と、上気した頬。たった一瞬だったのに、脳裏に焼き付いて離れなかった。

顔を上げる。ボールを放つ。高く、長く、弧を描くように。


「しゃ――――っ!」


ホイッスルが鳴って、ようやく音のない世界から帰ってこられた気がした。
ゴールをくぐったボールが床で跳ねて、転がっていく。


「玄! まじナイッシュー!」

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