冷徹御曹司は初心な令嬢を政略結婚に堕とす
第二章 政略結婚に愛はいらない
上手に息継ぎができなかったせいで、未だに乱れている呼吸を宗鷹さんに悟られぬよう、必死に肩で整える。
しかし努力はむなしく、唇からは「はぁ……っ」とわずかに吐息が漏れた。

吐息に混じる声はどこか甘さを含んでおり、普段深呼吸をする時とはまるで違っていて、恥ずかしくてたまらない。
私は熱く上気しているだろう顔のまま半開きの唇を隠すように、きゅっと握った手のひらで口元を隠す。

「……あの、私……いったん家へ帰ります」

消え入りそうな声しか出なかったが、やっとの思いで伝える。

政略結婚の全貌は理解した。菊永家と櫻衣家が婚姻関係を結ぶ件も、もちろん承諾したいと思う。
櫻衣商事は、曽祖父から櫻衣家の子々孫々に脈々と受け継がれてきた会社だ。私の代せいで倒産なんて事態になってはいけない。

けれども。

「まずは、その……出直させてください」

櫻衣家の長女としての役割を見出した今、一度実家に帰って、両親にもしっかりと宗鷹さんとの結婚の件を了承するの意思を伝えたい。
それに、愛のない結婚といえどちゃんと順序を踏まないと、二年間も縁談話を待ってもらった菊永家に対して、いくらなんでも失礼になる。

なんて色々と言い訳をしているが、どうしても家に帰りたい本当の理由は……宗鷹さんからのキスに、動揺しているからだ。
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