「へぇ…そんな事が」

 いつも社員食堂のご飯ばかりだと飽きるので、たまには会社付近にある飲食店でランチをすることもある。今日は会社が入る複合ビルを出てすぐ隣にあるカフェで、玲子と2人で軽食を摂った。

 愛梨には現状を知った上で恋の悩みを聞いてくれる相手は、玲子以外にいない。もちろん恋人はおろか雪哉以外の好きな人さえいた事がないので、今までは玲子に相談する話すら持ち合わせていなかったのだけど。

 話を聞いた玲子は、登場人物が身近な人ばかりの反面、内容がやけにドラマチックな展開を聞いて、興味深げに頷いた。

「ていうか玲子、知ってたんだね」
「何が? 弘翔が愛梨の事好きって事?」

 玲子の言葉にこくんと頷く。
 少し照れくさい気持ちでレモンティーを啜った愛梨に、玲子はにこにこと微笑んだ。

「それはもちろん知ってるわよ。愛梨が少し鈍感なだけ」

 年齢は同じ筈なのに、玲子の仕草や言葉が大人びていると感じるのは、薬指にダイヤがついた指輪が光っているからだろうか。
 愛梨の視線に気付いた玲子は、左手の指を伸ばすと指輪の位置を直しながらそっと溜息をついた。

「そうでもないか。人間って、自分の事になると意外と鈍感だもんね」
「玲子もそうだったの?」

 玲子が意味ありげに笑うので、思わず問いかけてしまう。玲子は顔を上げて愛梨の瞳を見つめると、少し照れくさそうに頷いた。

「うん。中学卒業してから成人式で再会するまで哲治のことなんてすっかり忘れてたし。それから連絡とるようになっても、正直3年ぐらいは好かれてることすら気付かなかったから」