救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~

エピローグ

「光治様、念願の新婚生活はいかがでございますか?」

N島に押し掛け何だかんだと周囲も巻き込みあやめと結婚。

心身ともに本物の夫婦となってから早くも1週間。

二人はそれぞれの職場に戻り日常生活を取り戻していた。

「浮かない顔をされておりますが、もしや離婚の最大の原因となる゛性格の不一致゛なるものが顕著化してきたとか?」

田中の不躾な問いに光治は驚いてブンブンと首を振った。

「そんなことはない。あやめはいつだって可愛いし優しい。体の相性だって抜群だ」

聞いてもいない閨事の話題に言及されて、田中は思わず照れてしまいそうになったが、黙って主人の悩みごとに耳を傾けることに集中した。

「そうなんだけど・・・」

「と申しますと?」

光治は話そうか話すまいか悩んでいるようだったが、田中は敢えてそれ以上急かすことはせず、黙って主人の言葉を待った。

「あやめに好かれている自信がない」

「あのあやめ様ですぞ?嫌いなら一秒たりとも一緒にはいてくれないと田中は断言致します」

初めこそ光治の独壇場だったが、二人が一緒に暮らすようになってからは、端から見たらどうみても相思相愛にしか見えないアツアツぶりだ。

「それはそうなんだけど・・・」

「だけど?」

「好き・・んだ」

「光治様があやめ様を溺愛していることなどとうに存じておりますが」

「違う、そうじゃない」

゛そうじゃないとはこれ如何に?゛

珍しく光治の言わんとすることがわからずに田中は首を傾げた。

「あやめに好きだと言われたことがないんだ」

光治の言葉に衝撃が走る。

強引に結婚に持ち込んだとはいえ、いくら口下手で恋愛初心者の光治でも、相手の気持ちぐらいは確かめてから一緒に暮らし始めたのだろうと思っていた。

現にドローンによる確認とはいえ、二人は伝説の岬でうっとりと口づけを交わしていたではないか、一度ならず何度も。

「言葉はなくとも、あやめ様のお気持ちは一目瞭然でありましょう」

田中のフォローにならない励ましに光治はため息をつきながら答える。

「いや、このところあやめの態度もおかしい。明らかに僕に何か隠し事をしている」

連休明けの月曜日、光治はベリーヒルズビレッジ内にあるモールの一角で仕事帰りのあやめを見かけた。

声をかけようと光治が近づいたところ、あやめは若い男性と話をしていた。

日に焼けて逞しい体つきは健康的で、病み上がりの光治とは正反対の容姿だった。

男性とともに歩きだしたあやめは満面の笑顔で、時折、男性の肩を叩いてふざけ合うなどかなり親しげだった。

沸き上がる嫉妬心に、光治は駆け寄って二人の会話を邪魔しようかと思ったがやめた。

おそらく光治と同じで、昔、あやめが担当した患者か何かなのだろう。

光治は踵を返し、できるだけ楽しそうな二人を視界に入れないようにして自宅であるレジデンスに帰った。
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