切ないほど、愛おしい

2度目は必然

「長谷川、もう帰るの?」

定時を過ぎ医局を出ようとした私に、先輩の声がかかった。

「はい。すみません」

なぜ謝るんだろうと自分でも嫌になるけれど、反射的に頭を下げていた。

「フーン」
先輩はお疲れ様も言わずにまたパソコン画面に目を落とす。

なんだかとても後味が悪いけど、この場に留まることもできない私は、

「お先に失礼します」
もう一度声をかけてから、医局を後にした。


救急外来で患者の旦那さんに詰め寄られてから1日経った。
幸い部長が上手に対応してくれて、大きな騒ぎにはならなかった。
私自身も、『自分の言動には注意するように』と小言を言われただけで終わったけれど、今回の件で私に対する先輩や部長の印象が悪くなってしまったことは間違いない。

あーぁ。
今頃また、私の悪口合戦になっているんだろうな。
考えただけで恐ろしい。

元々この病院の患者だった私が研修医として勤めることになった時、主治医からの就労許可が必要だということになった。
もちろん、先生はすぐに診断書を書いてくれたけれど、そこにはいくつかの条件が付けられていて・・・

大体、当直の回数制限や長時間勤務の禁止なんて、研修医にはあり得ないのに。
そんなこと、医者である先生が1番良くわかっているはずなのに。

バンッ。
悔しさ紛れに更衣室のロッカーを叩いて、私は病院を後にした。
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