復讐目的で近づいた私をいくらで飼いますか?
とある日の夜
「…ただいま」
「ん、おかえり。」
夜の仕事をしている私よりも新の方が帰りは早い。そして復讐相手に向かって『ただいま』を言うのが気恥ずかしく感じる今日この頃。
こんなことで恥ずかしがっていたら復讐なんて果たせるわけがない。
気を引き締めて、新の方へと歩いて行き…。
「藤堂さん、お仕事お疲れ様です。私でよければ肩でも揉みましょうか?」
営業スマイルを浮かべて必殺!上目遣い!
ママから習った男の人をイチコロにする必殺技だ。少しだけ前傾姿勢になり、瞳は優しく、口角を上げて微笑むように顔を覗き込む。
(完璧に決まった!)
だがしかし、勢いよく頬を摘まれて…。
「別にいい。ってか…その笑い方、呼び方、敬語…全部キモい」
「キモっ…!?」
思いっきり突き放された。一筋縄ではいかない相手だってわかってはいたが、ここまでとは…。
「……新の肩、揉んであげてもいいよ…」
「…………」
あぁ、なんて可愛くない。何も取り繕わずに『上目遣い』ならぬ『上から目線』。
(また冷たく拒否られる…)
無言のまま見つめてくる新の視線に、耐えきれなくなって顔を逸らす。横目でチラリと確認すると同時に彼は口を開いた。
「……じゃあ、寝る前にお願いする。」
寝る前なら良いんだ、と拍子抜けをする。
疲れているのかな。敏腕マッサージ師に比べたら一般庶民の私の力量なんて石ころレベルですけども…。
「それよりもお前、夕食は?」
「まだ、だけど…」
「そっか。じゃあ作ったの余ってるから食べろ。」
「………」
新の言った言葉を頭の中に留める。数秒後、ふんわり香る良い匂いに気づき、私はあんぐりと口を開けた。
(料理もできるのか…!)
なんでも出来るところ、相変わらず腹立たしい。確かにキッチンの方から食欲をそそる良い香りがする。
(…待てよ。この匂いは…!)
「まさか、肉じゃが!?」
「ああ。…匂いでわかるって…犬みたいだな。」
「わぁ〜♪ 肉じゃが大好き〜」
ふへへ、と締まりのない顔で笑う。久しぶりの大好物に胸を躍らせて私は手洗いうがいを済ませた。
ルンルンとスキップしているような気分で、鼻唄を歌いながら器に盛っていく。リビングの椅子に腰掛け、テーブルに並ぶ夕食に期待が胸中に蔓延る。
「いただきま〜す」
「ん」
大好きなおかず。まずは特に好きなニンジンを箸で摘んで口へと運ぶ。パクッと頬張れば程よい甘みが口内に広がり、私の心は有頂天だった。