「お前、ドレス持ってるか?」

「………ない、けど…?」


唐突な質問に私は眉間にシワを寄せた。

ドレス。
なぜそんなものが必要なんだろうか。


「………明後日の夜、仕事入ってないよな?」

「うん?」

「その日、夕方から予定開けとけ。展望台で開催されるパーティーに俺と出席しろ。」

「っ…え…パーティー? 私が…?」


新はいつだって突然私のことをドギマギさせる。

私の身分、ただのラウンジレディなのですが…?

パーティーなんて中学生の頃以来出ていない。この歳になってどういう立場で出席したらいいのか、まずよくわからないし。


(落ちぶれ企業の元社長令嬢……なんて後ろ指を指されそう…)


「………出たくないって言ったら…?」

「拒否権ないの知ってて訊いてる?」

「………承知の上ですとも…あはは」


ですよね!愚問でした!
笑って誤魔化す私を、新は呆れた表情で見ていた。


「ドレスは俺が見立てる。普段つけてるアクセサリー把握しておきたいから見せろ。メイクはお前に任せる。ドレスが決まったら、それに合う色味で…」


流暢に話す新は、まさに仕事ができる男っていう雰囲気。私のことを真っ直ぐに見つめながら言葉を紡ぐから擽ったい。


「……肌が白いから濃い色合いが似合いそうだな…。ブルー系だと不健康そうに見えるか…。暖色系の……」


一歩踏み出して私の顔を柔らかい目で直視する。近い距離で覗かれると、私の真意が新にバレてしまいそうで身体は硬直した。


「………新…顔近い…」

「…………今度はウブなフリか…?」


フリとかではなく、無意識に思ったことを言ったまで。
私の顔に更に自身の顔を近づけると、新は意地悪そうな笑みを浮かべて。


「慣れろよ、これくらい。俺の許婚なんだから」


最近の新は驚くほどに甘い。


声も、眼差しも、周りに漂う雰囲気も。


《ちゅ…》


キスも。


「んっ…」

「ふっ…顔真っ赤」

「……うるさい…」


ほら、今だって私のこと見て嬉しそうに笑う。


「……新って私のこと好きなの…?」

「直球だな」


質問に対して一言返すだけで、新はまた唇を重ねてくる。有耶無耶にするように唇を舐め上げると、私の口が開いた瞬間を逃さずに舌を挿れてきた。彼の両手で両耳を塞がれ、口内で起こるクチュクチュという水音が直接脳内に響く。


「んんッ…はぁ…♡」

「蕩けた顔して……それも狙ってやってんの?」

「狙ってなぃ…」


きっとまだ彼は私のことが好きじゃない。
私の反応を見て楽しんでるだけだ。新はそういう奴だ。
そう踏んだ私は、次の復讐計画を頭の中で念入りに練るのだった。