復讐目的で近づいた私をいくらで飼いますか?


「……ベッド行くか?」

「………」


私にとって好都合だよ。


「うん…」


婚約者なんだから、やましいことは何一つと存在しない。
たとえ自分が『初めて』だとしても。


ーー関係ない。


もう一度軽くキスを交わし、続いて抱っこされて奥の部屋へと進んでいく。

寝室も相変わらずのモノトーンの家具で揃えられている。白と黒の2色は新の性格を表現するのにとてもよく似合っていると皮肉めいた言葉を心中で吐いた。

《ドサッ》

ベッドの上に雑に身を置かれると、キスから再開する。上唇と下唇を食まれ、何度も軽く繰り返しながら手はスルスルと下へと伸びていき…。


「脱がすぞ?」


器用に新は私のショーツを脱がして羞恥心を煽るように脚を開かせると、身体を下の方へと移動させた。そして中心部にある一番敏感な場所に口付けを施す。


「ひっ…んッ…!」

「感度よすぎ。……ここ、もう濡れてる」


愛液を指先で救い上げ、私に見せるように銀糸を引かせて更に煽ってくる。新の思惑通り恥ずかしくなって顔を逸らすと、ズプンと指を一本挿入された。


「ッ…」


声にならない声が漏れる私を見て、新は一度静止した。

一切指を動かさずに私を見ている。ただただ無言の視線を受けるという時間が経過した。


「……なに…?」


飽きたんだろうか。何か気に入らない場所でもあったのだろうか。もしかして萎えた?
緊張しながらゆっくりと新の表情を見つめると…。


「処女?」


と、一言。


「え、なんでわかっ…」

「指一本でギチギチ」


スッと指を抜いて一度距離を取られる。

そりゃそうか。


(……経験豊富な人で性欲処理した方が後腐れないもんね)


処女は面倒くさいっていうのを聞いたことがある。男性にとって血は出るし、ものすごく痛がられて好きな人相手じゃなきゃ体力も時間も無駄にするようなもの。


「……この歳で処女なんて笑っちゃうよね」


変な空気で終わらせてはいけない。そんなことを思った私は無意識に口走る。
服を着て、さっさと部屋を出て行こう。そして気を取り直して、またこの男に近づけば良い。


「帰るね。またラウンジに…」

「……俺で良い?」

「………え…?」


私の話を遮る予想外の言葉。まさかそんなことを訊かれるだなんて思ってもみなかった。


「………お前が嫌っていうならやめるけど」

「…………嫌じゃない…」

「……じゃあなるべく優しくする…」


勘違いしそうになる。

私のことただの親が決めた婚約者としか見てないくせに。

私の身に纏うものを全て取っ払うと、新も裸になってベッドサイドに服を雑に捨てる。


「痛かったら言えよ」


その一言だけ残して、指をもう一度ナカへ。
不思議な感覚だ。
きもちいい? 痛い? よくわからない。

わからないけれど、新が肉芽を口に含んでちゅくちゅくと愛し始めてから…。


「ぁん…!あぁ…♡」


甘い悲鳴が我慢できなくなる。


「ん…ここ、好き?」


優しくノックするようにナカを刺激し始めれば、気持ちよさが断然上回ってビクビクと体が震える。


「好き…」

「…もっとほぐしたら俺ので可愛がってやるから…」


二重人格かと疑いたくなるほどに柔らかい声が降り注いで擽ったい。指でナカを侵しながら、今度は胸の頂きを爪弾く。


「ッ…あぁっ」

「喘ぎ声…可愛いな」


やめてよ。おかしい。こんなの…。


復讐をするんだ。


この男に復讐して、不幸を味わせて絶縁する。そう決めていた私の冷え切った心を溶かすみたいに。


侵食するみたいに。


「そろそろ挿れるぞ…」


ーー柔らかい眼で私を見ないで。


《ぐぷっ…》


空気を含んだいやらしい音とともに、重圧感を下腹部に感じる。


「痛っ…」

「はぁ…ごめん…もっとゆっくりする…」


言葉通り優しく徐々に沈めていくと、新は欲情した表情のまま私の唇を襲う。


「ぁ…んんッ…」

「キツいな…。これで全部入った…」

「変…ジンジンする…」


自然と涙を浮かべて見上げると、新と目が合う。いつの間にかこんなにも男の人になった彼を、初めて近くで感じた。


「動くぞ…。軽く揺するだけ…」

「うん…」


ゆっくりと宣言した通り身体を揺らすように動かしていく。ズキンとした痛みは感じるけれど、数分後、ゆったりとした快楽が襲った。


「あっ…ぁン…!んぅ」

「気持ちよくなってきた…? すっごいな…。溢れてくる…」


滑りが良くなって来たと察知した彼は、もはや優しくするなんて言葉に似つかわしくない動き方を始める。が、痛みに勝る悦に浸る私は意識が飛びかけて…。


「もっと声聴かせろよ……ッ…あぁ…キツく締めて……可愛いな、お前」

「んっ…ゃ…あぁ…♡」


気持ち良さそうに目を細めている彼。それから私が感じるのを見て口角をあげて笑った。


「初めてのくせに、腰動いてるぞ…? 淫乱だな…」

「そんなことなっ……あッ…」


悔しい。
憎い相手にここまでグズグズな姿を見せている自分が情けない。弱みを握られるようなものだ。

復讐のため…?

身体を差し出さなきゃいけなかった?



お互い、好きでもないのに。



「イキそ……はぁ…」


息を荒げて快感だけを求める腰の動きに、悲しさが募る。グッと破瓜の痛みと心の痛みを堪えて受け入れた。


(…もう後戻りはできない……)


『初めて』を奪われた?


ううん、違う。






これは、復讐劇幕開けの合図に過ぎない。



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