【番外編】好きの海があふれそう
だからあたしは、今まで恋の話しになったときにはなんとなく誤魔化してきた。



去年行った修学旅行の夜も、みんな恋バナばっかりで。



隠し事をしているあたしにはちょっと居心地が悪かった。



背中に、文字は書き続けられてる。



今は…4文字目?



でも、正直ドキドキしすぎてて、書いてある文字に集中できないよ…。



いつまで経っても触れられるのは慣れない。



何文字目かで文字が止まった。



もう一度振り返ると、悠麗が小さい声で「わかった?」と聞いた。



小さく首を横に振る。



悠麗が「もう1回」と口パクをした。



そして、また背中に指を立てた。



「ひ」「る」「ご」「は」「ん」



昼ご飯…?



「う」「ま」「か」「つ」「た」



昼ご飯うまかった…。



「何それ!」



思わず口に出してしまう。



悠麗を見ると、楽しそうに笑ってた。



キュンと音がする心臓。



昔から変わらない笑顔。



見る度に、好きだと実感する…。



退屈そうな悠麗は、次にあたしの髪の毛を手ぐしで整えだした。



撫でられてるような感覚に、「好き」が追い打ちをかけてくる。



「な、何やってるの?」

「三つ編み。玖麗、髪の毛細いな~」



そう言って感心したようにあたしの髪の毛で繰り返し遊んでる。



シャンプー、お母さんが新しく買ってきてくれた、いい匂いのふわふわになるのにしてよかった…。



杏光も今、後ろの席の男の子が好きだって言ってたから同じシャンプー教えてあげよう。



結局、悠麗が気になってノートにはほとんど文字を埋められないまま、5限が終わってしまった。



ホームルームで配られたプリントを後ろに回す度に悠麗の顔を見る。



いつもちょっと退屈そうにしてるか、ノートに落書きをしてる悠麗。



だけど、ホームルームが終わると荷物をすぐにカバンにしまって立ち上がる。



そして…



「玖麗、帰るぞ」



あたしの席に回り込んでそういう悠麗に、あたしはどうしようもなく、嬉しくってたまらなくなる。
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