【番外編】好きの海があふれそう
今日は、友達とプールに行く。



水泳バッグを持ちながら市民プールまで歩いていたら、近くのコンビニから見覚えのある人が出てきた。



杏光ちゃんだ…。



杏光ちゃんに会うのはあれ以来はじめて。



そして、隣には知らない男の人…。



綺麗な顔で、かわいい感じの人。



仲良さそうに2人で寄って歩いて、コンビニ袋から取り出したポッキンアイスを2本に割って食べている。



あれが、彼氏…?



杏光ちゃんの好きなタイプって、あんな感じなんだ…。



可愛い雰囲気の男の人。



俺とは全然違うタイプ。



杏光ちゃんは、俺に気づいたみたいで、俺に手を振ってきた。



そしてどんどん2人でこっちに近づいてくる。



「ケンタじゃん。どこ行くの?」

「あ、プール…」

「へ~。そっか、いいね、あたしも小学生のときよく行ったわ」



アイスを吸いながら今日も笑顔の杏光ちゃん。



「俺が今日は行きたくないって言っても無理矢理引っ張ってたよね、杏光…」



隣の彼氏が言った。



杏光ちゃんが彼氏を見る。



「でもなんだかんだ必ず来てくれたよね、海琉」

「それは杏光があまりにも強引だからだよ」

「はあ~? 喧嘩売ってるの?」



彼氏の名前はどうやら海琉って言うらしい。



ん、海琉…?



この前言ってたの、そんな名前だったっけ?



って、俺もこの海琉って人に負けないように何か言わなきゃ…。



「杏光ちゃん、もしプール行きたかったらいつでも俺のこと誘ってくれていいよ」



そう言ってから、ちらっと彼氏の方を見た。



でも、俺がそう言ったら、この海琉って人はなんだかすごく優しい顔をした。



な、なんだよ…。



「あはは、ありがとね、ケンタ。そうする」

「…」



杏光ちゃんもニコニコしてる。



俺の気持ちは、伝わっただろうか…。



それから、杏光ちゃんはコンビニの袋から、棒のフルーツアイスを1本出して俺にくれた。



「暑いから溶けないようにね」

「あ、ありがと…」

「じゃあね~。プール楽しんで」



そう言って、俺に手を振って行ってしまった。



俺は、手に持ったアイスを見つめてから、2人の後ろ姿を見送った。



なにか言い争いをしてるみたいだけど、2人とも楽しそう。



悔しいけど、お似合いだ…。



アイスはもう溶け始めてしまっている。



それをなかったことにしようと、俺はアイスを一息で口に押し込んだ。



蝉の声と、かいた汗が夏を知らせていた。
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