冬の花
3
目の前で父親が亡くなり、呆然としたままの私とは違い、
阿部さんは冷静に作業を進めて行く。


一切の迷いも動揺も見せない。


その表情には何も感情が無くて、
いつも見ていた阿部さんは、いつも笑顔で…。


別人、みたい…。


ブルーシートにくるまれた塊が、目の前にある。


その中には、父親の遺体や、血の付いたラグ等が入れられている。


ラグには防水加工されていたからか、畳にはあまり血は付いていなかった。


「ロープになりそうな物ある?」


そう声をかけられて、驚いたように体が震えた。


阿部さんは、真っ直ぐに私を見ている。


もしかしたら、私もこの人に殺されるんじゃないだろうか?


一部始終を目撃した私を、口封じに?


「ロープは廃品回収に使ってるナイロンのヒモがあったと思います。
でも…、警察呼んだ方がいいと思います。
私がやったって言います…。
父親に殴られて抵抗した時に起きた事故だって…。
私、普段からこの人に暴力受けていて…体に痣も残っているし…。
だから、信じて貰えるだろうし…。
それに、私…まだ未成年だから…だから、それ程重い罪にならないかも…」


そう言葉にしていたら涙が溢れて来て、
泣いている私自身、何に対して泣いているのか分からない。


ただ、涙が出て来る。


こんな状況でも、やはり私は目の前のこの人が好きみたいで、
庇いたいと思ってしまう。


阿部さんに殺されるなら、それも構わないと。
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