俺様アイドルが私の家に居座っている。
番外編

気まぐれファンサービス



「お前さ、オレ様のどこが好き?」


どんな自意識過剰な発言だ。


突然の問いかけに絶句した。

彼は相変わらず自分たちのライブを見ている。
よく飽きないな、と思いつつ私も数えきれないほど再生しているので、人のことは言えまい。
ましてや本人なのだから、昔の自分から何かを学ぼうというつもりなのだ。
今回の質問もきっとそのような意図あってだろう。

……変な意味じゃないはず、だから!

冷静を装って、私は少しだけ考えた。
好きを言語化するのは意外と難しい。


「怜の好きなところはいっぱいあるけど、激しい振り付けでも息をあげずに力強く歌うところ!
あとは表情作るのが上手い」
「表情?」


キョトンと聞き返される。
まさか、無意識だと言うのか。
あの圧倒的な表現力が。


「そうだよ!
怜といえば、アイドルっぽいキラキラソングは未成年らしく爽やかな笑顔で歌うのに、少し大人な曲になった途端に覗く野性的かつ妖艶な笑みがファンの心をとらえて離さないんじゃん!」
「お、おう、お前がオレ様大好きってことはよくわかった」


なぜかドン引きされた。
おかしい。私は聞かれたことに対して真面目に回答したのに。


「ま、とりあえず体力はあってソンないし、ランニングしてくっか。ありがとな」


しかも流された。
せっかく答えたのに。
文句が出そうになるのを堪えて、出かけるついでに買い物行ってきて、とメモとお金を渡す。


「気を付けてねー。交通事故とパパラッチに」
「はいはい、聞き飽きたっつーの。
んじゃ行ってくる」
「いてら」


あ、と小さく声を上げた怜。
反射で振り向くと、イジワルな顔をしている。


「いい子で待ってろよ」
「……早速事故にあった? 早く行ってきて」


つまんねーな、と言いながら出ていく様子を見守る。

完全に扉が閉まったと同時に、一気に顔が火照った。


「ほんっとう、タチ悪すぎる!」


ステージ上でもないのに輝いて見えるなんて、反則だ。


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