嘘吐きな王子様は苦くて甘い
「やっぱ、アイツに告られてたんだな」

「そうだけどでも…っ」

「分かってる。そん時の俺は最低だったし、お前にどうこう言える立場じゃねぇし」

「旭君…」

「一応話はついたんだろうけど、また何かされたら言えよ。俺が出てくと余計ややこしくなんだろうけど、ひまりが何か言われんのは嫌だ」

「フフッ」

「んだよ」

「旭君が優しいからつい」

フニャッと笑えば、旭君がクシャッと顔を歪めた。

「止めろ、もう」

「旭君、旭君っ」

「よ、呼ぶなバカ」

「旭君」

「だから…っ」

「今日嬉しかった、ホントにありがとう」

旭君の手にそっと触れる。旭君は一瞬ピクリと反応したけど、そのまま黙ってて。

「私のこと、探してくれたんでしょ?菫ちゃんから聞いたよ」

菫ちゃんと風夏ちゃんも私を探してくれてたみたいで、教室で凄く心配そうに声をかけてくれた。

私が前橋さんに呼ばれた後中々帰ってこないから、てっきり旭君関連で呼び出されたのかと思ったらしくて。三組までわざわざ旭君に聞きにいってくれたって。

それで旭君も心配して、私のことを一生懸命探してくれたんだろう。







「旭君、だ、だい…だ…だ…」

「ひまり」

「だ、大好き…っ」

「…」

「です…」

手に触れたまま、ギュッと目を瞑ってそう口にする。心の中では幾らでも大好き、可愛い、かっこいいって言えるのに、口にするのは私にとってはまだまだ難易度が高いみたい。

もっと可愛く言いたかったのに、これが精一杯なんて情けない。

「…」

「…」

旭君は口元を片手で隠して、私は頬っぺたに片手を当てて、お互い顔を隠すようにしながら手は離したくなくて。

周りから見れば、完全に何やってんだな私達。イチャイチャしてるのかしてないのか。お互い、暫くの間恥ずかしさに固まったまま。

もう…これいつになったら慣れるんだろう。

「やべ…マジで一生慣れる気しねぇ」

ポツリと、旭君が呟く。偶然だけど私が心の中で言った言葉に返してくれたみたいになって、思わず笑ってしまった。

「こーら笑うな」

「ヘヘッ。旭君の手、あったかい」

「っ、お前はまたそういう…あー、くそっ」

今度は自分の髪をクシャクシャにしながら、旭君は私の手を引いて歩き出す。

その様子も可愛くて、私はやっぱり笑ってしまうのだった。
< 57 / 89 >

この作品をシェア

pagetop