嘘吐きな王子様は苦くて甘い
第十一章「彼なりの決意」
「旭君、この前はごめんね」

「もーいーって」

学園祭二日目の日、私は旭君を教室に置き去りにしてたことをすっかり忘れて前橋さんと話し込んだ。

気付いて慌てて教室に戻った時には旭君の姿はどこにもなくて。

それから何十分後かに再開できた旭君は、髪はクシャクシャで息は上がっててボロボロ。私がまた呼び出されたんじゃないかと思ってずっと探し回ってくれてたらしく。

申し訳なさでいっぱいになりながら何度も謝ったけど、ちょっとだけ嬉しく思ってしまったことは心の中にしまっておいた。

「期末テスト、もうすぐだね」

「おー」

眠そうに欠伸をする旭君は、今日もカッコいい。

「私今回世界史がダメそう」

「俺まだ何も手付けてねぇ」

「そんなこと言って旭君いつも点数いいくせに」

「そりゃやることはやってっからな。今はまだ何もしてねぇって話」

「昔から意外と真面目だもんね」

「あ?意外ってなんだ」

笑う私に、旭君が手を伸ばしてくる。いつもの流れなら、頭クシャクシャかな?

「…」

って思ってたら旭君はなぜかすんでのところで手を止めて、そのままスッと引っ込めた。

「旭君?」

不思議に思って声をかけたけど、彼は何も言わない。別に怒ってる感じじゃないし、私もそれ以上は何も言わなかった。









「あ、大倉さんだ」

移動教室の時、偶然前橋さんを見かけた。彼女も私に気付いて控えめに手を振ってくれる。

「ひま、あれ何?」

私は何も思わず手を振り返したけど、菫ちゃんと風夏ちゃんは訝しげな表情で彼女に視線を送ってる。

「あの子だよね?ひまりのこと呼び出したの」

「ひま、また何か言われた?大丈夫?」

「違うの、もう何もされてないよ。前橋さん、謝ってくれたんだ」

「え、そうなの!?」

「うん、一ノ宮君のことは誤解だったってちゃんと分かってくれたよ」

私の笑顔を見て、二人ともそれが本当のことだって信じてくれたみたいだ。

「ひまがいいなら私らはもう何も言わないけど、ホントにいいの?」

「うん、前橋さん明るいいい人みたいだし。多分もう、何か言ってくることはないと思う」

「じゃああの子達は?ひまりにでたらめ言った子達!」

「あの子達とは、多分前橋さんみたいな感じは無理だと思う…」

一ノ宮君とは何もなくても、旭君とは付き合ってるから。あの子達の気が治ることはきっとない。

「でもね、多分旭君が何か言ってくれたんだと思う。あれから何もないから」

旭君はあの学園祭の日、多分あの二人に私のことについて何かを話してくれたんだと思う。

聞いてもハッキリとは答えてくれないけど否定もしないし、私をあんなに一生懸命探してくれる旭君だから。

「もしまた何か言われたら、その時は二人に頼っちゃうかもしれないけど」

「そんなのいいに決まってんじゃん!むしろ何も話してくれない方が嫌だよ!」

「ひまは遠慮しいなんだから、言わないと勝手に乗り込んでくからね」

「二人とも、ホントにありがとう!」

菫ちゃんにも風夏ちゃんにも迷惑はなるべくかけたくないけど、こんな風に言ってくれることは凄く心強くもあって。

二人が困ってる時には全力で力になりたいなって改めてそう思った。
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