深海特急オクトパス3000

.          ─死臭─

 

硬質(こうしつ)な振動に揺られながら僕は眠っていた。


規則的(きそくてき)に響くガタンゴトンと言う音と振動(しんどう)


無機質な振動音のBGMに揺られ僕は目を覚ました。



僕が目覚めて最初に目にしたのは鉄の床。


僕は座席に座ったまま眠っていたようだ。


嗅覚神経を()す腐った臭気(しゅうき)


ずきりと頭が痛む。


やたら重い空気が胸を圧迫(あっぱく)していた。


僕は気分が悪くなり、
前の背もたれに頭を押し当てもたれかかって、
うつむいた。


(のど)が乾燥で焼きつく。


前の背もたれの床下から、
血のような赤い液体が僕の足下に流れて来ていた。


僕はその目の覚める(よう)警戒色(けいかいしょく)の赤に、
どっきりとして首を上げた。



窓から流れる見知らぬ情景(じょうけい)



 そこは電車の中。



窓の外は(あお)一色の深海(しんかい)


深海の中、透明チューブの中を電車は走っていた。


500Mおきくらいに深海の中に設置された、
凱旋門(がいせんもん)に似た門を(くぐ)り抜ける(たび)に、
(にぶ)い振動と音が響いていた。



 いつから僕はここにいるのか?


 なぜ電車に乗っているのか?


 どこに向かうのか?



それに答えてくれる者はいなかった。



全てが深海の闇の中に沈んでいた。



鼻を刺す()びた腐敗臭(ふはいしゅう)にむせて辺りを見渡すと、
電車の中は血の海だった。



 (いた)る所に飛び散った赤、赤、赤。


 鮮血(せんけつ)()められた世界。


 心の余白(よはく)に流れ込む死の臭い。



現実の生々(なまなま)しさを(さら)し見え隠れする、
 
 
   死体

   死体

   死体


そこには殺人狂(サイコパス)原風景(げんふうけい)が広がっていた。



生々(なまなま)しき死に(いろど)られたその光景(こうけい)固唾(かたづ)をのむ。


そのあまりの光景に言葉を失い、
遅れてやってきた、はやなる動悸(どうき)が、
死の恐怖を実感させた。

 
 
 
  汗ばむ(ひたい)


  強張(こわば)る体。


 

僕は死の(おとず)れに敏感な草食動物のように、
物陰(ものかげ)(おび)える稚魚(ちぎょ)さながらに、
間近(まぢか)で見つめる死に(おび)えていた。



  思い出せ!


  思い出せ!


  思い出せ!



近づく死の足音に(おび)え、僕は必死で記憶を辿(たど)る。


だがどうしてここにいるのか、
その経緯(いきさつ)はおろか、
自分の名前さえ思い出せない。
 
 



ただどうしようもなく恐怖だけがそこにあった。



乾燥した肌がチリチリと痛む。



死の恐怖が残像が、胸をしめつけ、
目眩《めまい》と吐き気が襲ってきた。

 

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