誰よりも不遜で、臆病な君に。

「そろそろ、難しいお話は終わりにしませんか? お茶の準備が整ったそうです」

呑気な声が場を和ませる。ロザリーが運び込ませた大きめのテーブルに、三段のスイーツタワーが置かれていて、紅茶の香りが漂っていた。

「ロザリー。悪かったな、放っておいて」

「いいえ。難しい話は私には分かりませんから。でも、おいしいお菓子は分かりますよ。今日はレイモンドさんにババロアを頼んでいたんです。クロエさんが来るんですもの」

ふわりと柔らかいロザリーの笑顔に、アイザックだけでなく、クロエも和んだ。
たまに、力を抜くことは大切なのかもしれないと、思うのは彼女と出会ってからだ。
昔はがちがちだったアイザックの変わりようを見るとそう思う。

両親や世の中が望んでいるのは、周囲を和ませ、癒しを与える彼女のような女性だったのだろう。

(でも、分かってしまった。私には無理なんだわ)

ロザリーのように、人を和ませるのはクロエには無理だ。なりたいと望んでもいない。

(私は、……お兄様たちみたいに、生きていきたいんだわ)

目的のために走っていく、男のような生き方をしたいのだと気づいて、軽く落ち込む。
少なくともこの国に、女性がそんな風に生きる基盤は用意されていないのだ。

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