王都にいる間は、恋人のふりをして過ごすこと。ゆくゆくは婚約する女性……内定済みみたいなものだから、婚約者として振る舞うこと……。

出立当日、リズは緊張しっぱなしだった。最終確認をジェドたちと打ち合わせたあと、その設定を何度も頭の中で繰り返してしまう。

「リズさん、落ち着いてください。深呼吸です」

「それ、前にも聞いた気がします……で、でも、もしバレたら」

「団長がなんとかしますから大丈夫ですっ。先程もお話しましたが、獣騎士団の団員でもありますから服はそのままで大丈夫ですし、出会いの経緯についても、カルロがそばにいれば詮索してくる貴族もないかと――」

おろおろと心配したコーマックの話も、耳を素通りしていく。

団長様のお相手の女性のふり、だなんて、私に務まるのだろうか……?

第一王子ニコラスの専属の護衛騎士であるエドモンドは、先日、一旦正規のルートで戻るべく獣騎士団から出発していった。リズたちとは、数日遅れで王宮に到着する予定だ。

外でコーマックに励まされていると、準備を済ませたジェドがカルロに乗ってやってきた。他の獣騎士たちが、相棒獣と共にそれを見守っている。

「さて、行くか」

カルロに騎獣したジェドに、当たり前のように手を差し出される。

先日の幼獣攫いの騒ぎがあってから、彼はよくリズに手を差し伸べた。思い返せば時々、気遣っているみたいに優しい時があって――。

「なんだ、まだ慣れないのか?」

「えっ? ――あ」

不意に抱き上げられて、気づけば彼の前に座らされていた。

じっと見つめていたジェドの明るい青い目が、すぐそばで不敵に笑う。触れているところから温かい体温が伝わってきて、たったそれだけでどうしてかドキドキしてしまった。

カルロが「ふんっ」と鼻を鳴らした。まるでやれやれと言わんばかりのように思えた直後、唐突に空を駆けて急上昇される。

強い風を感じたリズは、ジェドに支えられ、そのまま大空を駆けたカルロと共に獣騎士団を出発した。