蕾の恋〜その花の蜜に溺れる〜



「もう直ぐGWね」


「・・・そうですね」


飛鳥さんとの散歩のゴールは芝生の上

そこでボンヤリするだけの時間を

実は少し嬉しくも感じている

車椅子に座っているから
飛鳥さんの表情がよく見えるのも
案外気持ちが楽で良いのかもしれない


「ねぇ、蓮ちゃん知ってる?
永遠は婚約して一年になるのよ?」


唐突に振られた話しに驚愕する


「へ?」


「その顔は知らなかったのね」


フフフと笑う飛鳥さんは
大ちゃんの友達の話を始めた


幼稚園の頃から女の子達に絶大な人気の三人組

大ちゃんと永遠と亜樹

大ちゃんが二人と仲良かったから
私も必然的に一緒に遊ぶことが多かった

大ちゃんは一人っ子だったけど
二人にはそれぞれ兄弟がいて

永遠のひとつ上の遥華ちゃんは女の子の友達がいない私を
『行くよっ』といつも手を引いてくれたお姉ちゃん


「亜樹はお父さんが再婚したから
同い年の妹が出来てね“琴ちゃん”って言うんだけど、その琴ちゃんの友達が亜樹の彼女なの」


「へぇ、そうなんですね」


あれから六年

皆んなそれぞれに恋をして
素敵な道を歩いているんだ


「でね、その彼女ったら美少女戦士みたいに可愛い女の子で
“優羽ちゃん”って言うんだけど
見た目に反して毒舌で怖いんだって〜」


まるで自分のことのように話しては笑う飛鳥さんを
どこか客観的に斜め上から観察していた


そして・・・ふと頭を過ぎる思いを打ち消すように話しを変える


「ところで飛鳥さん
運転免許は諦めたんですか?」


七年前に「やってやるわ」と
妙な意気込みを聞いた気がするそれは

私が覚えている限りでは
形になっていないはず


「あ・・・やだぁ」


そう言って頬を両手で挟んだ飛鳥さんは


「諦めたわ」


思い切り眉を下げた




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