冷徹旦那様との懐妊事情~御曹司は最愛妻への情欲を我慢できない~
馴れ初め

和倉奈月の働く和食器専門店「広川堂」は昭和初期から続く老舗で、駅から徒歩五分の好立地に広々とした店舗を構えている。
敷地にはよく手入れされた楓の樹が並び、奥に進むと引き戸の出入り口が見えてくる。

全国の工房から取り寄せる器は人気が高く常連客がついているし、最近では海外からの観光客が立ち寄ることも増え店内はいつも賑わっていた。

奈月の仕事は主に接客と商品管理だ。ひと言で接客と言っても、器の深い知識が求められる。そのため学生時代にバイトとして始めた頃は、想定外の問い合わせをされる度に慌ててベテラン社員に頼っていたものだ。

大学卒業後に正式に社員とし採用され八カ月が過ぎた。

バイト時代と合わせて三年の経験を積んだ今、ようやく一通りの仕事をこなせるようになったと自信を持てるようになってきている。

数多くの和食器は美しく見ていると幸せな気持ちになる。特に好きなのは青が美しい染付の器で、この仕事に興味を持つきっかけとなったものでもある。

ときどきお客様に叱られ凹むこともあるが職場の同僚は皆優しく居心地がいい。奈月はこの仕事が大好きだった。

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