【改訂版】CEOは溺愛妻を杜に隠してる
「あらら、ヤル気満々?」

 聞いてきた慎吾も好戦的な表情だ。


「……むしろお買い得物件ではある、か」

 多賀見の新規事業である薬膳レストランや、漢方薬エステはじわじわと出店数を増やしている。

 うちのホテルにテナントで出させても利益は見込めそうだ。

 考えこんだ俺を慎吾がさっそく茶化す。

「おいおい。ムカついたからTOBしてやろうとか、いいだすなよ?」

「今はしない。……じゃあ多賀見はなにを考えて申し入れてきた?」 
 
 隠岐の助言やコネを必要としているからじゃない。……逆にTOBを仕掛けるから、世論を納得させるために本家への繋ぎが欲しいのか? 

 思考の海に彷徨っていると、慎吾が話し出した。

「多賀見には令嬢がいらっしゃる。玲奈、二六歳。婿探しを始めたってところかな。確か、令息もいたな。三〇歳、今は専務。……おそらく息子が次期社長だろうが」

 いつもながら、慎吾の調査能力はすごい。

「ボンクラな息子と交代劇の前に、地盤を固めておいてやろうって親心なのか?」

 つい、皮肉げな笑みを唇に浮かべてしまう。

「令息は評判も良い。トータル、多賀見と組んでも隠岐家にデメリットは少ない」

 慎吾が冷静に指摘する。

「強いていえば、家格差を騒ぎ立てるウチの親戚くらいか」
「だな」


「……にしても、解せない」

 俺が『ならば光は不要だ、別の庭師を探す』と言ってしまえば、令嬢との見合い話もなくなるのに。

「使えるものは庭師でも使おうって魂胆かもよ?」

 二人して考え込んだ。
 やがて。

「いずれは来ると思ってたが、まさかこういう形で縁談をねじ込まれるとはな……」

 長い息を吐き出した。

 受けないという選択肢はなかった。
 俺はどうしても『光』氏に、祖母の庭を監修してほしいのだから。
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