不完全な完全犯罪ZERO
ロック好きな彼女
 事務所の近くに小さなカフェがあった。
俺は千穂と百合子の会話を此処で録音したことを思い出していた。


何気に見た店内にあの女性がいた。
俺の携帯の外部取得データーに入れた、ボンドー原っぱの恋人だと思えた。


「あの女性を見て、俺は木暮の兄貴の奥さんだと思うんだけど……」


「ん!? あっ、きっとそうだよ」
木暮もそう言った。


「何で此処にいるんだろう? 確か母ちゃんは引っ越ししたとか言ってたけどな」


「引っ越し?」


「そうなんだ。新しい恋人が出来たんだって」


(えっ!? 恋人? まさか原っぱか?)
俺はボンドー原っぱの携帯に収まっていた画像を思い出していた。


「母ちゃん言っていたよ『兄ちゃんのことは早く忘れた方がいい』って。俺もそう思った」


「辛いよな皆」
俺は何も考えずに言っていた。




 俺達はその女性の近くに席を取った。


「それにしても凄いドクロだったね」
ワザとなのか、木暮が言った。
俺は慌ててふためいて彼女を見た。


彼女は青ざめているように見えた。


俺はドキドキして、身を縮こめた。


(もう、木暮の馬鹿。よりによってこんな場所で)

俯き加減で又彼女に目をやる。

でも二人は気付いていないようで、ホットコーヒーを飲んでいた。


(二人?)
俺は彼女が一人だと思っていたのだ。
でも隣にはもう一人……

その人は俺達が探していたゴールドスカルのペンダントヘッドを身に付けていた男性だったのだ。


「そう言えば母ちゃんが言っていたな。MAIさんに新しい恋人はロックのミュージシャンなんだってさ。兄貴もそうだったから解る気がした」


「へー、そうなんだ。その人がこの男性かな?」


「もしかしたら……、いや、きっとそうだな」


(でも、待てよ。確か原っぱはMAIさんを恋人だって……あれは何だったんだ?)
俺の頭は疑問符だらけになっていた。




 みずほのコンパクトが熱を帯びている。
ずっとポケットに仕舞いぱなしだったから呼吸をしたがっているのかと思った。


とりあえず出してみた。
それでも俺は躊躇した。
あの言葉を見たくはなかったからだ。


だから俺はずっとそのままでいたんだ。
その時、木暮の手がコンパクトを奪い開けていた。


「あっ!?」

木暮の驚き声を耳にした時、まだ見せていなかったのだ思った。


(あれっ、でも確か見せたはずだ。いや、あの時はまだ気持ちの整理が着かなかった頃だ。もしかしたら見せてもいなかったのか?)
気が付いたたら、動揺している俺がいた。


そっと恋人の横に移動して、コンパクトに目をやった。




 「あっ!?」

俺も驚いて声を発していた。


「これは何なんだ!?」
二人同時に言っていた。


コンパクトに書かれた《死ね》の文字に、ゴールドスカルの映像が重なっていたのだ。


それはますます不可解な様相を呈しているかのように思えた。

俺はそっと、後ろを振り向いた。




 知らない間にそのペンダントヘッドの持ち主が横に立っていたのだ。

俺は慌ててコンパクトを閉じた。


「さっき確か会ったよね?」


「えっ、何時ですか?」
俺はとにかく知らばっくれることにした。


「原田の葬儀会場でだ」


「えっ、その原田って誰ですか?」
俺は更にすっとぼけた。


「あっ、そうか本名知らないか。あのボンドー原っぱのことだよ」


「えっ、彼処にいたのですか? 大勢いたので気が付かなかった」
俺は悪いと思いつつ、更に嘘を重ねた。




 「実は俺の彼女、原田の恋人だったらしいんだ。何だか気になってさ。だから君達が何か知っているのかなと思ってさ」


「えっ!?」


「あっ、聞かなかったことにしてくれ。ヤだな俺、何だか嫉妬してるみたいだ」


「へー、彼女ってパフォーマー好きなんですね」
俺は思わず言っていた。


「いや、彼女はロック好きなんだ。これ噂だけど、原田があんな風になったから俺に乗り換えたらしいんだよ」
その人はそう言った。


彼はきっと心配だったんだ。
だから彼女が居ない内に聞いてみたかったのかも知れない。

そう、彼女は俺達の気付かない内に席を外していたのだ。


(その話し誰に聞いたのだろうか? もしかしたら彼女に嫉妬して?)
そうは思ってもしらばっくれることにした。



 「いや、俺達ただボンドー原っぱさんにお別れをしたかっただけです」

全ての意図を汲んで、木暮が言ってくれた。


「だって原田さん……でしたっけ? 原っぱさんは、この町の出身ですから」


「あっ、そう言うことか? 俺はただ、君がレポーターに何か言いたそうに見えたんだ。だからもしかしたら何かを知っているのかな? なんて思った訳てさ」
彼はそう言いながら席に戻った。


其処を見ると、まだ彼女は居なかった。
彼が椅子を腰を下ろした頃、彼女が戻って来るのが見えた。


手にはスマホがあった。
どうやら、電話をしていたらしい。
彼は俺達に目をやり、唇に人差し指を当ててから慌てて彼女と向き合った。




 「それで決まった?」


「やっぱり一週間後だって」


「俺が居たらダメかな? この際だから、皆に紹介してほしいな」


「カフェ主催の女子会なのよ、ダメに決まってる」
彼女は笑っていた。


(女子会か……あれっ、確かさっき見たような気がするな)
何気にそう思った。


実はさっきこのカフェに入る時に、貼り紙を目にしていたのだ。
それはカフェには似つかわしくないドデカサイズのポスターだった。
それだけ力を入れた企画なんだと思っていた。


「女子会って何をするのかな?」
木暮が耳元で囁いた。
それがなんだかこそばゆくて、俺は肩を竦めた。


「女子会って言う物は……、あれっ、一体何をするんだろう?」
俺の返事に木暮はコケていた。


俺はそれに物凄く興味を覚えた。
事件の真相が解るかも知れないと思ったのだ。
そっと木暮を見まると、何だか浮き足立っているように思えた。


ふとテーブルを見るとメニューの中に何かが挟まっていた。
早速開いてみたら、それはMAIさんの言っていた女子会の案内チラシだった。




 女子会はクリスマス前に行われるこのカフェの恒例行事のようだった。
学校が休みになる前に、大人女子だけで楽しもうと言う企画のようだった。


「そう言えば、令和になる前は天皇誕生日から冬休みだったな」


「だからその前に……」
ふと、発言の止まった木暮を見るた。


木暮は大人女子のネーミングに反応したようだ。
俺は何やらヤバイ予感がした。




 「ねえ、そのペンダントどうしたの?」


「確かさっきも聞いたよね? これ貰い物だけど、何かあるの?」


「私が買った物に似ているの」


(私が買った物? あっ、そうだ。木暮の兄貴は奥さんから貰ったって思っていたな? もしかして勘違い?)
その途端に何故かホッとしている自分がいた。


「ずっと探しいたの。それと同じのを……。ねえー、誰から貰ったの?」
彼女は意を決したように言った。
俺には、MAIさんの真剣そうな口調がそう聞こえたのだ。


「私が買ってしまっておいた物に、本当に良く似ているの。大切な物なの。だからずっと探し続けていたの。でも見つからないのよ」
彼女は痺れを切らしたようにそう言った。


(ずっと探し続けるいるか?)

何故だかそこが妙に引っ掛かっていた。


でも俺は深読みする訳でもなく、ただその場で聞き耳を立てていた。
木暮はそんな俺の横でさっきのチラシを見ていた。




 女子会はクリスマス前に行われる、このカフェの恒例行事のようだ。
学校が休みになる前に大人女子だけで楽しもう、と言うような企画だった。


「大人女子!?」
そのネーミングに木暮が反応したようだ。


木暮は俺が見つたチラシをそっとポケットにしまい込んだ。



(一体、それをどうする気だ)
何やらヤバイ予感がした。こう言う直感は良く当たるのだ。


それでも俺達は二人の一言一句を聞き逃さないようにと神経を集中させた。




 「ねえ、教えてくれない」
彼女はまだ言っていた。


(よっぽど大切な物なのだろう)
俺はそのゴールドスカルのペンダントヘッドが木暮の兄貴に贈るためではなかったことに胸を撫で下ろしていた。


(彼女はこのペンダントヘッドが木暮の兄貴の首を落とした事実を知らないのではないのだろうか?)
俺がさっきホッとした理由はきっとこれに違いないと思えた。


(もしかしたら、犯人はやはりあのストーカーなのだろうか?)
俺の頭の中に木暮の兄貴が鏡越しに見た、あの男性の目が甦っていた。




 「お前の兄貴奥さん相当ロック好きだね」
木暮の耳元で囁くと頷いてくれた。


「ロック好き、と言うより支え好きなんだよ。夢を実現しようと頑張っている人を応援しているんだ」
木暮はそう言いながらそっと腰を上げた。




 「ありがとう瑞穂。実は俺最近、兄貴の奥さんに会ってないんだ。母ちゃんは東京へ行ってたから結婚したことは知っていたけど……」


「もしかして、結婚の報告前に亡くなったのか?」


「兄貴のメジャーデビューが決まってやっとって思っていたんだけど、マネージャーから口止めされていたから」


「口止め?」


「マネージャーにはMAIさんが兄貴を駄目にする存在だと映っていたのかも知れないな。そんなことないんだよ。だってMAIさんは兄貴の幼馴染みで、良く俺とも遊んでくれたんだ」


「お前、兄貴の後を付いて行ったのか?」
俺の質問に頷いた木暮。


「あっ、そうだ。金魚の糞だ」


「なんだいきなり」


「思い出したよ、原っぱのこと。やはり兄貴の仲間だったって」


「だとしたらヤバかったんじゃないのか、あのカフェ。原っぱは兄貴の仲間だったんだろう? MAIさんだってお前だと気付いたかも知れないだろう?」

俺の言葉に木暮は黙ってしまった。


「大丈夫だよ。もう何年も経っているんだ。気付くもんか」
それでも強気な発言をした。


 とりあえず今日得た情報を叔父に報告しようと木暮を同伴させてイワキ探偵事務所へ向かった。


「一週間後か? 出来れば行っててみたいな」
木暮は妙なことを言い出した。

「えっ、女子会へか?」
俺はひっくり返りそうになった。


「もしかしたらお前。有美から何か聞いたのか?」


「何かって、何だ?」


「だから、俺が女装しているところを見かけたとか」
言ってしまってから気付いた。
俺は自ら木暮に、女装していることを打ち明けてしまっていたのだった。


「えっ、えっーー!? へぇー、お前が女装をね。一体何でそんなことしてんの?」
木暮は今にも吹き出しそうだった。


「お、叔父さんの手伝いだよ。本当はイヤだけど、叔父さんに頼まれと断れないんだ」
俺はしどろもどろになっていた。いくら親友でも弱味は見せたくなかったのだ。


「確か叔父さん、元警視庁の凄腕警察官だったんたよね。高校生にそんなことさせても良いかな?」
俺の直感は図星だった。木暮は怖いことを言っていたのだ。


「俺が何であの高校に入らなかったのか知っているか?」


「単なる偏差値の問題だろう? お前の高校の方がレベルが高いから……」


「違うよ。俺は彼処の生徒達に聞いたんだ。彼処は校則が厳しいって言ってたよ。私立を落ちたヤツが大勢受験するだろう? いい加減な高校生活を送らせないためだとか」
木暮に痛い所を突かれ、俺は返す言葉がみつけられないほど落ち込んでいた。それにしても驚いた。
あの校則はそんな意味もあったのかと。



 とりあえず叔父の了解をもらって、イワキ探偵事務所の中に入ってもらった。
木暮は俺に何が言いたいのだろう?
俺はそのことばかり気になっていた。
でも木暮は叔父に対して時候の挨拶とかしただけで何も話してくれなかった。




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