氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
「綾さん!?」

 声の方を見ると少し離れたオブジェの向こうに長身の男性の姿が見えた。
 
「間宮さん!」

 綾は思わず縋るような声を出してしまった。
 間宮は大きなストライドで迷わずこちらに向かってくる。
 
 近づいてくる彼が綾にとって救いの光――にこの時は思えた。
 
(間宮さん!ごめんなさいっ)
 
 綾たちの目の前まで来たタイミングで、第三者の出現に驚いたのか緩んだ赤井の手を振り払った勢いで、間宮のスーツの腕の手を掛ける。
 
「わ、私、この人と結婚を前提に付き合ってるの!だからもう構わないでくださいっ」

「な……」

 赤井が初めて怯んだ顔をする。それはそうだろう。綾が結婚を前提としている男として只物ではないイケメンが現れたのだから。
 隣に立つ間宮の反応はわからない。というか、怖くて見れない。

 このまま、ここをフェードアウトして何とか振り切ろう。間宮には利用してごめんなさいと後で平謝りしよう。

「じ、じゃあ、私たち行くから……」

 とその場を去ろうとした……のだが。

 彼の腕に掛けていた手がそっと外され、その腕が綾の肩に回る。そのまま大きな手で肩ごとグッと引き寄せられる。
 
「ひえっ」

 つい小さく声が出てしまった。
 いつもベンチで隣に座る間宮だが、ここまで密着したのは初めてだ。
 彼の纏う爽やかな香りが鼻腔をくすぐってくる。
 
「どうしたの、綾、慌てて」

 頭上で甘い声がする、というか髪に唇を寄せながら発せられているので、吐息と振動が背筋に伝わり思わずゾクリとしてしまう。
 
「早くふたりきりになりたいのはわかるけど、君の友達に挨拶させて欲しいな?」

「え……」
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