氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
 間宮は肩の手を綾の腰に回して改めて引き寄せる。
 
「君は?」
 
 甘かった声のトーンが冷たいものにガラリと変わる。
 相変わらず間宮の表情は見えないが、見据えられた赤井の表情が強張っているのでそれなりの威圧感を与えているのだろう。
 その落差に驚き、身体的な密着度の高さを忘れてしまう。

 先に相手を名乗らせるという敢えてのマナー違反も、間宮の静かな迫力に圧倒された赤井は気づかないようだ。
 
(……格が違う。年は多分そんなに変わらないと思うけど)
 
 人としての何かが根本的に違う気がする。
  
「お、俺は、十二建設の専務の赤井だ」
 
 我に返った赤井がやっと声を出す。
 
「……十二建設の」

 間宮は思い至る事があったのか一瞬呟くように言った後、続ける。

「僕は間宮という。今、綾が言ったように僕たちは結婚を前提に付き合っている。彼女が迷惑しているようなので、もう関わらないでくれるかな」

 彼の声は淡々としているが、相手に反論をする余地を与えない。

「おい、綾、本当なのか?」

 間宮には言い返せない代わりに赤井は綾に疑問を投げかけてくる。

「……本当、です」

 嘘を付く事に全く慣れてない綾はこの場を乗り切るためとは言え胸がざわついてしまう。
 このままだとすぐにボロが出てしまいそうだ。思わず間宮のスーツの端を掴んで『退散したい』と意思表示する。

「――では、失礼する」
 
 察してくれた間宮はまだ何か言いたげな赤井を残し、彼女をその場から連れ出してくれた。
< 15 / 72 >

この作品をシェア

pagetop