氷の貴公子は愛しい彼女を甘く囲い込む
「もちろん。君にあげようと思って準備したんだから……なんか、今日一番うれしそうな顔をしてないか?」
 
 興奮気味の綾に海斗は吹き出すようにして笑う。
 
「だって、本当に可愛いんですもん。ありがとうございます!海斗さん、私がこの子が好きだって覚えてて探してくれたんですね」

「喜んでもらえて良かったよ」
 
 笑顔のまま海斗は綾の頬に手を伸ばし、顔に掛かった髪の毛を耳に掛けてくれる。
 
「あ……」
 
 海斗の熱をはらんだ視線を受けていることに気付き、今まではしゃいでいた綾は魔法をかけられたように固まってしまう。途端にふたりの間の空気の色が変わる。
 
 綾の耳に掛けた手を後頭部にずらし、彼が長身を屈ませる。
 
 綾の唇に彼のものが、そっと重ねられ、すぐに離れていく。
 
「……綾、シャワー、浴びたい?」
 
 耳元で少し掠れたような呟きが聞こえる。
 
「は、はいっ。それはモチロン!でも、あ、あの、海斗サン、オサキニ……ドウゾ」
 
 壮絶な色気に当てられたダメージでカタコトになりながらも何とか答える。
 
 ん、何かミニバーで好きなものを飲んでいて、と海斗は後頭部に添えていた掌をするりと抜いて、綾の額にキスを残して、バスルームに向かう。
 
 彼の姿が見えなくなると、綾は縫いぐるみを抱きしめながら脱力するようにソファーに沈みこんだ。
 
(な、何なのあの色気と余裕は……手練れだ、手練れがいる)
 
 あんな態度で迫られたら、大した経験値も無い綾などひとたまりもないではないか。
 
(そうは言ってもさすがに緊張するよ……海斗さんが出たら私もシャワー入らなきゃ……)
 
 乏しいものだが、経験が無い訳では無いし、嫌とかでも無い。ただただ、状況に「ビビッて」しまっている。流されて来た自分がいけないのだけど。
 
 心を落ち着かせたくて縋るように膝に乗せたペンギンを再び抱きしめる。
 
 本当に極上の抱き心地だ。中に入っている綿も絶妙な入り方で柔らかすぎないのもいい。
 アデリーペンギンのぬいぐるみなんて、あまり見たことが無かったし、あっても作りが雑だったり安っぽかったりして購入する気になるものはなかったのに。

(こんなに可愛いのがあったんだなぁ)
 
 フワフワとした感覚に安心感を感じ、綾はさらにペンギンに頬釣りした。

(それにしても、高級ホテルのソファは座り心地も極上ね……ウチのベッドよりも寝心地が良いかも)

「……」
 
 いつの間にか綾は半分瞼を閉じ、意識が混濁し始めていた。身体の重さと温かさを感じ、睡魔に襲われている事に気付く、
 
 なんせ今日は昼過ぎからドレスの試着からヘリコプターでのナイトクルーズ、と普段は経験しないようなスペシャル体験が続いたので、ここへ来てどっと疲れが出たのかもしれない。
 
 そしてレストランで満腹になり、久々のアルコールまで頂いてしまった。
 
(いやいや、駄目でしょ、このタイミングで寝ちゃ……)

 さすがにマズい。

 綾は必死に目を開けようと奮闘した。
 
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