あやかしあやなし
第四章
 その頃化野では、寺から少し離れた竹藪の中を、惟道が歩いていた。淡竹や、竹細工に使えそうなものを見つけては籠に入れていく。

 そうしながら、辺りを見回した。そう遠くに行っていないかもしれない。相当な出血だったし、もしかすると血を辿ることができるかも、と思ったが、生憎人間とは全く違う移動手段なので、血の跡は見当たらない。

 ため息をつき、空を振り仰ぐ。飛んでいた鴆が、ふわりと惟道の肩に降りてきた。

「おらぬか」

『奴も鳥だしねぇ。一飛びで結構距離は稼げるだろ』

「だったら鞍馬に帰ったのか」

『それはないんじゃないか? さすがに鞍馬は結構遠いし、それに都には近付きたくないだろうよ』

 ふーん、と惟道は再び空を見た。鞍馬というのもついこの間聞いたばかりで、どこにあるのかわからない。空を飛んでも結構遠いとなると相当なのか、と考える。もっとも見上げた空には上のほうまで背の高い竹が生い茂っていて、遠くまでなど全く見えないのだが。

『勝手な思い込みで逃げ去ったのはあいつのほうだよ。雛には可哀想なことだけど、あんたが気に病むことはない』

 何故か鴆が、怒ったように言う。人間離れした感覚のせいか、惟道はやたらと物の怪に好かれる。人の形をした物の怪と思っているものもおりそうだ。
 惟道自身も、人よりも物の怪のほうが接しやすいところがある。鴆にしても、惟道を信用しなかった烏兎に対する腹立ちがあるようだ。

「俺のことは別にいいんだが。やはり雛が可哀想ではないか」

『まぁそれはそうだけどさぁ。そこは烏兎が己の愚かさを嘆くことだね』

「都の物の怪狩りというのは、そんなに酷いのであろうか」

『そうさねぇ。最近めっきり都に行く奴がいなくなったからわかんないけど、まぁそういう状況から見ても、結構酷いってことだろうよ』
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