「これは断固拒否の姿勢なの。茶会のマナーはもう頭に叩き込めているし、また同じことで無駄な時間とられるのは、癪」

 リリアは伯爵家の執事にして、自分の教育係であるアサギを睨んだ。

 アサギは、二十代前半の外見をした若い男だ。この地方では珍しくもない黒い髪に、これといって特徴のない平凡な顔と細い身体をしていた。

 ――だが彼は、実のところツブァイツァーが生まれた時から、いる。

 レイド伯爵家の執事は、代々妖怪国から来た妖狐が勤めていた。

 アサギは、次の当主の執事にと、妖怪領から派遣されてきた黒狐だ。作法も完璧に習得し、ほとんどの時間を人間に化けて過ごしている。

「はぁ。姫様って妙なところだけ覚えが早いというか……それでは、妖怪国についておさらいしましょう。あなた様は、人間界と妖怪国、どちらも学ばなければなりません」

 疲れ切ったように肩を落としたアサギが、人間界の学習本をいったん閉じて机の上に戻した。