100輪目の薔薇を君に。





ちょー先生に恋したと気付いてから



私はかなり変わった



枯れるまで放置だろうなと



思っていた薔薇を生ける為に



興味の欠片も無かった



華道を習い始めた



流派を言われたけど



すぐに忘れた



ちょー先生が薔薇を渡しそびれる日は



一度も無かった



50輪目の薔薇を貰う日が来た



「おめでとう。



よく今日まで生きたね!」



50輪目の薔薇は



いつもより香り高く



それでいて虹色だった



「あ、ありがとうございます。



先生これ、おいくらしたんです?



見た感じ、かなり高そうですけど…。」



先生は少し考えてから



「五時間働いた分の給料!って



言えば分かりやすい?」と



からかうように笑ってきた



少し思考停止した



一時間1000円として



「…ごっ…ごっ…!?!」



「メルカリで買っても良かったんだ。



でもやっぱ、お店で買いたくてね。」



照れたように笑うちょー先生より



この高い高い薔薇に目が行く



どうやら、品種改良により出来た



レア物だそうで



高い薔薇は一本五万する物もあった



帰って速攻生けた



盛花にしようか



でも、盛花だと切る事になる



投げ入れか



投げ入れでも多少切るけど



まぁ、いいや



私は縦長の花瓶を用意し



そこに水を入れる



予め用意した水が入ったバケツの中で



水が通りやすくなるようにと



水切りをした



一輪だけじゃ寂しいから



この前の授業で使った



葉っぱも付けておいた



「おー…。」



当たり前だけど、綺麗だった



薄く汚れた私の心とは違い



透き通った色だった



「写真送ってあげるかっ。」



パシャリ。パシャリ。



二枚程撮って



気に入った方を先生に送る



LINEを交換したての時は



ちょー先生が話しかけて来なきゃ



特に話す事は無かったけど



今じゃ私から話しかけて話す事の方が



多くなった



《先生?先生から貰った薔薇、生けたよ。》



そんな言葉と共に



さっき撮った写真を送信した



三分後



《お!?!凄いじゃん!!



先生のお給料飛ばしただけある󾌹》



喜んでるのか悲しんでるのか



分かんないじゃんかよ!と



心の中で突っ込んだ



《そっか。なら良かった。》



って私、返信冷たすぎんだろ



嫌われるぞ、おい



や、でも、急に明るくなってもな



うん、私は私だから私だ



って私、心の中でぶつくさぶつくさ



何意味分かんない事言ってんだ



《んじゃ先生、仕事戻るから



寂しくなったら先生の家勝手に



入っててもいいからな!》



そんな優しさに甘えたくなる



《分かったよ。仕事中にごめんね。》



甘えたい気持ち隠して



素っ気なく返事をしてスマホを閉じた



また朝が来た



仏壇の前で



お父さんとお母さん



そして、真実に祈りを捧げて



LINEを開いた



既読が着いてなかった



まぁ、そんな日もあるかと



少し残念な気持ちになった



学校に着いて



職員室に向かう



ちょー先生が居なかった



「す、すみません!



ちょー先生…、楮吉先生は…。」



新種を発見してしまった



そうでも言いそうな程驚いた顔で



何人かの先生に見られた



一人の先生が、気まづそうに口を開いた



「楮吉先生は、昨日倒れちゃって



今、病院に居るよ。」



「病院。病院、教えて下さい。」



そうして、教えて貰った病院に



急いで行った



学校は今からだって分かってた



でも足は止まらなかった



先生達の注意を全部無視し



私は走った



もう話せないのかな



死んじゃうのかな



お母さんとお父さん



真実のように_



病院に着いてすぐ



看護師さんに病室を聞いて



とにかく走った



「先生…っ!」



居た、居た



先生が居た



でも、目を瞑っていた



「…先生…?やだ、やだやだ



ねぇ、やだよ…。ねぇ、先生。」



柄にもなく



泣き狂った



もう話せないのかな



もう無理なのかな



そう思っていた時だった



「ちょっと驚かしただけで



こんなに泣かれちゃ困るわ!」



私の頭に



優しい声と、大きな手が



ゆっくりと降りて来た



私はその手を掴んで



思い切り摘んだ



「…いっった!!



ちょ、痛い!!痛いって!!」



先生に制止されるまで摘んだ



だって、ムカついたから



ムカつきすぎたから



何より、嬉しかったから



「…死んじゃうかと思った。」



「死んだら薔薇渡せないじゃん。



俺絶対最後まで、渡すからね。」



「今日は?」



「無いから自分で買ってこい。」



「何それ。」



つまんない会話だ



本当につまんない会話だ



でも、何故だか



無性に笑えて来た



「何で笑うんだよ!」



「先生だって笑ってんじゃん!」



「本当だ、何でやろ。」



声を出して笑った



本当に久しぶりに笑った



「ねぇ、先生?」



少し落ち着いてから



私は口を開いた



「…何で、倒れたの?」と



「あー、えっと、あれだ、あれ。



倒れてみただけや!」



それまでに感じた幸せが



その違和感で一気に飛んだ



絶対嘘だって分かったから



「ね、先生。何か、病気なの?



嘘つかないで。嘘つかれる方が



私悲しいから。お願いだよ、先生。」



必死に、何分もかけて想いを伝えた



先生は少し悩んでから



「…当たっちゃったー。」と



悲しそうに笑った



また、笑った



先生は辛い時、笑う



私は今回だけは笑えなかった



「何…?何て病気なの…?」



泣かなかった、泣けなかった



治療法の無い



ただ死を待つだけの病気



早くて明日



遅くても二ヶ月後には死ぬなんて



言われてしまったから



抱き締めた



抱き締めなきゃ居られなかった



先生は次の日も学校を休んだ



でも、家に



薔薇が二輪届いていた



昨日の分らしい



それを見て、号泣した



次の日は、学校に来た



薔薇だけ渡して、病院に戻った



抜け出したらしい



次の日も、次の日も



薔薇だけ届けて先生は戻った



お見舞いにも勿論行った



点滴をされてる時もあった



寝ている時もあった



それでも、学校に行くと



必ず薔薇を届けてくれた



薔薇の本数が90本を超えた



既に数十凛以上、枯れていた



命のように、枯れて行った



「楮吉。好きだよ。」



「俺も好きだよ、涙奈。」



いつの間にか付き合った



キスも交わした



学校に薔薇なんて



届ける元気ない癖に



絶対、届けに来た



99凛目の薔薇は



病院で貰った



私はその日、病院で寝た



もう長く無いって、分かったから



次の日起きると



楮吉が苦しそうだった



病院の先生を呼んだ



「…尽くせるだけ尽くしました。



ですが、今夜が、山場かと…。」



深く例をして、消えていった



ガラガラガラ



沢山の管が繋がっていた



もう、本当に最期なんだ



「…楮吉…。」



「涙奈…。最後のお願い。



俺…に、薔薇、買いに行かせて。」



最後のお願いが



そんなものかと責めたくなった



「ダメに決まってる…っ。」



でも、でも、笑顔でお別れしたいから



責めずに、笑いかけた



でも楮吉は点滴や管を抜こうとした



そんな事させられなくて



私は手を抑えた



反抗する力すら、残ってなかった



「なぁ…お願い。薔薇、薔薇…を



買いに行かなきゃ…ダメ、だから…。」



何度も、繰り返し言うから



私は理由を聞いた



すると



「…じゃあ、買ってきて。お願い。」



と、返ってきた



私は直感的に



”買いに行かなきゃ”と思った



またあの時のように



走った、走って、転けて



でも、走って



花屋に着いた時にはボロボロだった



「…すみませんっ!



薔薇…薔薇を、一輪下さい…っ!」



一番、一番高いやつにした



バイトで必死こいて



稼いだお金全部無くなった



それでも良かった



「…先生、先生、買ってきたよ!」



泣きながら戻った時には



先生の目は移ろ移ろしていた



でも”買ってきたよ”と言うと



そっか、と笑って



理由を話してくれた



私は涙を止める事が



出来ずにいた



「…本当は、101本渡したかった。



でも…この際、100本でいい…よ。



俺、ずっと、ずっと好きだったよ。



俺も…俺もね、あの日、死のうとした。



屋上に行って、涙奈を見つけた。



変だよな…。生きたくな…った。



俺だけじゃないんだって、思えた。



救われたよ。ありがとう。



だから…泣かないで。涙奈。



100輪目を、ありがとう…。



最後は、涙奈から渡して欲しいな。」



「…分かった…分かったから…っ。



死なないでよ…ね、結婚したいの…!



あと八凛買ってきたら…いい?



どしたら、待っててくれるの。



楮吉…、待ってよ…ねぇ…!」



「100%。俺は、俺の心全部。



つまり、100%で、涙奈を



愛してる。100%の愛って



あながち、間違ってないかも…ね。



ね、涙奈。幸せになって欲しい。



俺も、ね、幸せにして欲しい。



だから…薔薇、薔薇を頂戴、?



108本渡されると俺、泣いちゃ…から。」



渡せば、終わる



分かってたのに



渡して、しまった



ハグをした



キスは、出来ないと思った



呼吸器を外せば、亡くなるから



外しちゃいけないはずなのに



楮吉は外した



震える手で、呼吸器を外して



病気なんて、あっちいけ



そうとでも言うように、投げ捨てた



そしてキスをした



長い長いキスだった



「…あ…てる。」



「…私も。」



最後の会話だった



嫌な音が鳴った



もう、戻らないと知らせる音だった



あれから、何年経っただろう



私はまだ、結婚出来てない



何なら、楮吉を忘れられなくて



先生にまでなってしまった



「…よし、これでいい。」



私は、校庭に薔薇を植えた



忘れられないなんて、情けないな



そう思いながら、空を見上げた



「…会いたいよ。」



ポツリ、少し呟くだけで良かった



良かった、のに



涙が止まらなくなった



「…先生、大丈夫?」



もう、チャイムが鳴る



そんな時だった



一人の生徒に、話しかけられた



「大丈夫だよ。ありがとう。」



そう言って立ち上がろうとした私に



ハンカチを差し出してくれた



優しい生徒だな、と思っていると



「薔薇、綺麗ですよね。」と



話しかけて来た



「え?」



その生徒の顔を見て



更に涙が止まらなくなった



面影しかない



楮吉、だった



「君、名前は?」



「え、と、柊木。



柊木、楮吉。」



「そう。いい名前だね。」















何を話そうか



悩んでいた時に鳴ったチャイムは



あの日のように意地悪だった




END
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