翡翠の森



・・・


無意識のうちに唇が動き、目が覚める。


(……っ、私、今……)


ガバッと身を起こし、寝ぐせの酷い髪を整えようと指でといても、すぐにその指先は自らの唇を疑うように触れる。

だって、自分で信じられない。
どうして、ロイの名前なんて。
まるで、好きな人の夢を見た恋する乙女みたいだ。


「ジェイダ様? 」


ジンの声に、慌てて何事もないふりをする。


「ジン。ごめんなさい。あれから、ずっといてくれたのね」


今は朝方だろうか。
眠りに就いた頃より明るい気がするが、太陽の力が弱いこの国では、よく分からない。
素足を床に下ろすと、思わず爪先立ちしてしまうほど、ひんやりしていた。
まして、ここは閉ざされた王城だ。
外の様子など、窺うことはできない。


「私は、ジェイダ様の護衛ですよ」

「……ごめんね」


事情を知るよしもないが、彼女が兵士となった理由があるはずだ。
並大抵ではない志なのだろう。
それをロイならともかく、何の力もない少女を守らなくてはいけないとは。
兵にとっては、屈辱かもしれない。


「誤解なさらないで下さいね」


ジェイダの肩に上着を掛けながら、諭すように言った。


「私は、とても光栄に思っているのです。此度の任務を」


驚いて顔を上げれば、いたずらっぽく笑う。


「やっぱり。そんなことを悩んでらしたのですね」


熱を測っていた手を離し、細い指がジェイダの額を軽く弾く。


「貴女は、敵国に拐われて来たのですよ? その敵の雑兵の心配をするとは」

「雑兵なんて……!! 」


そんなふうには思えない。
若く美しい、自分よりも遥かに女性らしい女性。
何よりもその温かさに、この短い時間で触れてきたのだ。


「そう思って頂かないと困ります。先に言っておきますが、何かあれば私を盾にして逃げて下さいよ」


ジェイダに剣は持てない。
確かにそうしなければ、邪魔になるばかりだ。
だとしても、頷くなんてできないけれど。
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