カレシとお付き合い② 森君と杏珠
プロローグ 〜森和慎サイド〜
♢〜森和慎(もりかずま)サイド〜♢



「だから、どんな子がタイプなのよ?」


放課後。
校舎の外れの廊下で、問われた。
 どんな子⋯⋯ ?


「その時好きになった子がタイプかな? 」


とにっこり笑ったら、目の前のたぶん今カノが、


「もう! しょうがないな〜和慎(かずま)は! ぜんぜん一貫してないじゃん! 付き合う子も全然タイプが違うし〜」


わざとらしく()ねた。


「だからね、他の子と話さないで! 」
「なんで? 」


面倒だと心底思った。


「だって、私がカノジョでしょ⁈ 」
「オレを好きな子は、みんなカノジョだよ? 」


今カノが深くため息をついた。


「はぁ、何アイドルみたいな事言ってんのよ。カノジョは特別じゃなきゃダメだよ。もういいわ」


今カノは、あきれたように言った。


「あたし、告白されてるから。私がいいって、私がタイプなんだって言ってくれてるの。そっちと付き合うわ。バイバイ和慎」


 たぶん今カノが、元カノになって出て行った。
 勝手に告白してきて、勝手に特別だと言い、勝手に他の男に乗り換える。

 馬鹿みたいだ。

 自分も。

 オレ、何もしてない。
 それが嫌なのか。

 でも執着するほど好きって気持ちって、どんなだろうね。
 好きなタイプって考えた事ないんだよね。

 何となく虚しくなって、窓の外を眺めた。

 窓の下の道は学校の裏手で、教室移動や掃除時間以外あまり人通りがない。
 放課後のこの時間は、クラブも始まっているので、ちょうど人けがなかった。

 なんとなく窓の下を眺めていたら、2人組の女子が通りかかった。

 なんだ?小さくてフワフワしていて、小動物みたいだな、と思った。
 
 何であんなかんじなのかな。

 2人だけ、取り巻く空気が他と違うみたいだ。
 透明のケースの中にいるみたいな。
ケースの中のかわいいぬいぐるみのような。

柔らかそうな生き物⋯⋯ 。


 聞くつもりもなかったが、ちょうど真下を通る時、カノジョ達の話す声が聞こえた。


「大丈夫だよ! 」


窓の上から見ている俺に、全く気がつかないまま、話に夢中の2人の足が止まる。


「ぜったい大丈夫だって! 私はそう思ってる! 」


 話す彼女の、明るい真っ直ぐな声がオレの心になぜかささった。

 内容はわからない。

 しかも全然根拠のなさそうな、その楽観的な可愛さが、なんか、こうやってはげまされたい、と思うかんじだった。

 好きなタイプなんてわからない。

 でも、あんなふうに話す子、と言う項目だけ加わる。

 2人はまだまだ夢中で話しながら歩き始めて、校舎に沿った窓の下の道を歩いて行く。

 2人が見えなくなるまで、ぼんやり見ていた。




 ⋯⋯ またいた。

 2人で立ち止まってしゃべっている⋯⋯ 。
通路の途中だ。
何をあんなに話すことがあるんだろう、一生懸命に。

 よく似ているが、1人は肩までの、ツヤのあるストレートな髪に少し固い生真面目なかんじか。

 そして、なぜか目がいってしまうのはもう1人の子⋯⋯ 。
『大丈夫だよ』のカノジョ。
 柔らかそうな髪に明るい素直な話し方、ちょっと可愛らしくぬけているが、妙に元気で生命力を感じる子。
一生懸命話すときの表情が、いそがしく、くるくるかわる。
明るく笑う、
驚く、
真剣になる、
困る、
その全部の表情が、目が離せない。

 またしても
「大丈夫だよ! やってみよう! 出来るって! 」
と隣の子に言っている。

 根拠のない前向きさが(なぜに大丈夫か? )と思わず身を乗り出してしまいそうな、なのになぜか心が軽くなる。
 楽しくなる。
 カノジョになんでもいいから「大丈夫だよ! 」って言われたい、そうしたら、どんな事でも大丈夫な気がする。


 好きなタイプの項目が増える。

 容姿は、あんな感じぐらいの背丈で小柄が可愛いと思う。
 髪が柔らかそうな、フワフワした感じが触りたくなる。
 丸い大きな目で真っ直ぐにオレを見て、明るく話す表情や声に好感が持てる子。
 そして『大丈夫! 』と前向きに言ってくれる子。

 そんなタイプの子だ。




 カノジョが男子生徒と2人で歩いていた。
 瞬間、よく分からないけど苛立った。
心の奥底から、強い気持ちが湧き上がる。
 でもよく見たら、カノジョは困ったように後ろを歩き、気まずそうにしている。

 安堵した。

 どんな男と付き合うんだろう、とボンヤリ考えているときには、もう『オレが』と思っていたと思う。

 なんだろうこの気持ち、好きなんだろうと、これが片思いなんだとわかった。







 新学期、
 同じクラスにいた。
 神サマに感謝。
 親友ちゃんと別のクラスで、しゅんとしている。
かわいそうに。
 オレは嬉しくて、ドキドキしてるけど。


 石原 杏珠(いしはら あんじゅ)


 あまりに可愛い名前に心が(たかぶ)る。

 他の男も当然そう思うだろうと周りが気になり、冷や汗が出てくる。

 早く、早くオレを知って、オレだけを見て。
 君を思うと苦しいんだ。

 『大丈夫だよ』ってオレにも言ってよ。

 杏珠


⋯⋯ ⋯⋯ ⋯⋯ ⋯⋯ ⋯⋯ ⋯⋯ ⋯⋯


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