「──と、こんな感じだけど、何か追加事項とか修正すべき部分があれば締結する前に直そうと思うけど……?」


 ぼんやりとしているうちに契約書の読み上げは終わり、桐生さんは横から契約書を差し出してくる。

 黙って書類を受け取り、パラパラと中を通し見た。


「はい。これで、問題ありません」

「じゃあ、サインと捺印をお願いできるかな」


 最後のページには、すでに桐生さんのサインと判が押されている。

 さらっと書かれた流れるような達筆の下に、手渡されたペンで自分の名前を書いていく。

 事前に持って来てと言われていた判子をバッグから取り出し、名前の横に捺印した。


「……できました」


 私のサインの入った契約書を受け取った桐生さんは、確認するように最後のページを見直す。

 そして、黙ったままさっきの封筒へと書類を納めた。


「これで、宇佐美さんと俺は契約結婚が成立したということになる。夫婦、という関係になったということ」


 夫婦……といっても、形だけの契約。何も臆することはない。


「はい。よろしくお願いします」

「こちらこそ、どうぞよろしく」


 横からすっと手を差し出され、視線を上げて桐生さんの顔を見つめる。

 よく見ないとわからないくらいの微笑を浮かべた桐生さんは、私に握手を求めていた。

 その筋張った大きな手に、自分の手をそっと重ね合わせる。

 不思議な契約結婚という関係を始める私たちの初めてのスキンシップは、どこかぎこちなくよそよそしかった。