解けない愛鎖

「何か言ってよ。せっかく会いに来たんだから」

「せっかく、って。勝手に来たんでしょ?」

「冷たいなー。リナが結婚することになったってシュウから聞かされて、結構ショックだったのに」

「嘘吐き」

口元に笑みをたたえたまま軽く眉尻をさげるヒロキを、じっと睨む。


「嘘じゃないって。だから俺がリナへの気持ちに整理がつけられるように、少しだけ付き合ってよ」

さらに一歩距離を詰めてきたヒロキが、ワインの瓶を持ち上げて軽く目を細める。

少し手を伸ばせば触れられる距離まで近付いてきたヒロキからは、一年前とは違う、あたしの知らない香りがした。

ヒロキにはたぶん、この香りを漂わせて抱き締めている別の誰かがいる。

それなのに、本当に純粋に、付き合いの長かった元カノの結婚を祝いに来たつもりなのだろうか。

ヒロキの言葉には何度も裏切られたのに、彼の言葉に簡単に惑わされてしまうあたしもどうかしている。

ヒロキからの電話に出てしまったときから、あたしの理性と感情は徐々に乖離し始めていた。


「付き合ってくれるよな、リナ」

そっと頬に触れてきたヒロキの手は、素肌に馴染んで温かい。

懐かしい体温と知らない香り。あたしがそれを受け入れるのに、それほど時間はかからなかった。


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