拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
#7 見透かされた心

 当然、菱沼さんも一緒に住んでいると思いきや、同じ最上階ではあるものの隣の部屋だった。

 実質、私は桜小路さんのお宅で、人生初の男の人とふたりきりの同棲……いやいやそうじゃなくて、カメ付きの同居生活を送る羽目になった。

 荷物もそんなになかったので、溜息交じりにやる気なく進めても、荷解きはすぐに終わってしまった。

 そこへタイミングよく部屋のドアがノックされ、菱沼さんに呼ばれた私は、一体何畳くらいの広さなのか見当も付かないほどだだっ広いリビングダイニングにて、諸々の説明を受けている真っ最中だ。

 といっても、まだ試用期間なわけだし、あわよくば試用期間中にクビになることもあるかもしれない。

 就活は大変だろうけれど、愛想も素っ気もないいけ好かない御曹司と同じ屋根の下でなんて暮らすよりは遙かにマシだ。

 数時間前まではあんなに上機嫌だったというのに、荷解きをしていた間に、いつしかそんな心持ちになってしまっていた。

 そんな私は、やる気はゼロ、話半分という有様で、これまたオシャレな北欧のなんちゃらいう有名なブランドらしい座り心地のいい革張りソファに座っている。

 そこから、正面にあるガラス張りのローテーブルの向こう側のソファでふんぞり返って足を組みコーヒーの入ったカップを優雅に傾けている桜小路さんの様子や部屋の中をチラチラと観察していた。
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