昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
 また仕事に戻って右京が集めてくれた青山の主要事業の会計報告書に目を通していたら、三十分ほどして「お父さま、嫌!」と凛の叫び声が聞こえてきた。
 何事かと思って同じ階にある彼女の寝室へノックもせずに入る。
「凛、どうした!」
「私を捨てないで! お願い!」
 凛が泣きじゃくりながらベッドの上で手足をバタバタさせていた。
 きっと悪い夢でも見ているのだ。
「凛、大丈夫。夢だよ」
 彼女の両手を押さえて優しく言い聞かせる。
「嫌! お父さま!?」
 凛の悲痛な叫びを聞いて胸が痛くなる。
 伯爵は夢の中まで彼女を苦しめるのか。
「凛、夢だ。起きて俺を見ろ」
 そう何度も声をかけて、彼女はようやく目を開けて俺を見た。
「鷹政……さん?」
「そう俺だ。うなされていた。怖い夢でも見たか?」
 凛の額の汗を拭いながら問いかけると、彼女は申し訳なさそうに謝った。
「……ごめんなさい。父に捨てられる夢を見てしまって」
< 164 / 260 >

この作品をシェア

pagetop