精霊たちのメサイア

27.揉め事

27.揉め事


とっても天気のいい昼下がり、ビルの顔だけが曇っていた。お菓子を摘んではため息。お茶を飲んではため息。ため息の嵐だ。


「ビル」

「…………」


そしてこの通り。それ程大きくもない丸いテーブルを挟んでいるだけなのに、私の声はほぼほぼ届かない。すぐ側に控えている護衛騎士のレジスさんに視線を送るも、何があったのか説明をしてくれる雰囲気ではない。ウーゴさんなら多少は聞きやすかっただろうけど、レジスさん相手だと聞きづらい。

ビルから話してくれるのを待ちたいけど、このままじゃ気になってしょうがないので思い切って聞いてみることにした。


「ビル」

「…………」

「ビルってば!!」

「っ!? え!? な、何!?」


私が意味もなく突然大声を出したみたいな反応をされ、思わず苦笑い。


「何じゃないよ……何度も呼んだんだよ?」

「ご、ごめん……」

「どうしたの? 何かあったの?」

「実は……言い合いになってしまって……どうしたらわかってもらえるんだろうって考えてた」

「誰と言い合いになったの?」

「ウーゴだよ」

「え!? ウーゴさんと!? 何で!?」


優しくて温厚そうなウーゴさんといったい何が原因で言い合いなんて……レジスさんならともかく……と思ってしまった事は忘れよう。

最初は精霊たちがワーワー言っていたけど、今ではレジスさんの頭やら肩やらに精霊がたくさん乗っかっている。今や大人気だ。最初のあの騒ぎは一体なんだったんだろう。


「このままアガルタ王国に留学したいって言ったらウーゴに猛反対されたんだ」

「何でウーゴさんは反対なの?」

「獣人族と人族は国交はあっても、個人的に留学などの繋がりを持った事はないんだ。 だからいくら獣王国の王族とはいえ、何があるか分からないから危険だってさ。 自分の国に居たって危険な目に遭うのに……何が違うのか僕には分からない」


そうだよね。安全だと思ってた場所で攫われて、怖い思いして……王族って私が思ってる以上に危ない思いをしてるんだろうな。ビルの気持ちも分かるけど、ウーゴさんの心配する気持ちも分かる。


「留学って一人で? 誰か側にいてもらうの?」

「二人には申し訳ないけど、勿論ウーゴとレジスも一緒にだよ。 でもウーゴからはそんな問題じゃない!って怒られたよ」


眉を下げて笑うビル。

あー……ウーゴさんの怒った顔が目に浮かぶ。


「レジスさんは反対じゃないんですか?」

「何処にいようと私の役目はビルヒリオ殿下をお守りする事ですから」


流石は護衛騎士。

ビルが誘拐された日、レジスさんは王宮を離れていたそうだ。何やら魔物の出没が増えたらしく、その原因を探るため捜査にあたるよう王様の命に従っていたとの事。初めて見た時は冷たい人なのかもと思ったけど、ここ数日でその考えは変わった。ただのポーカーフェイスなだけで、ビルへの忠誠心はものすごく感じる。


「ビルはウーゴさんと仲直りできなかったら留学は諦めるの?」

「諦めないよ。 だってレイラやアレクサンダー殿下がいる。 ジュリア殿下もとても良い人だ。 レイラたちに出会わなければ人族の国に怖くて留学なんてしようと思わなかったと思う。 でも僕は知ってしまった。 仲良くなるのに種族など関係ないって。 だから正式に王位を継承する前に色んな世界を見ておきたいんだ」


そう語るビルの瞳はキラキラと輝いていて、あんなに怖い思いをした後だというのに希望に満ち溢れている。まだ子供なのにビルはとても強い。それが羨ましく感じてしまう。

ビルとわかれた後、一人で庭園を散歩した。王宮に訪れた人なら誰でも見てオッケーな庭園。癒されるための散歩だったのに、大人しく部屋に戻っていれば良かったと早々に後悔した。


「あら、ご機嫌よう」

「ご機嫌よう、深紅の聖女様」


まさかこの人に会うなんて……最悪。

深紅の聖女様も王宮に滞在してるのか?と思うくらい会う。こうして2人で会うのは初めてだけど……。

話はしたくなかったので、笑って会釈して横を通り過ぎた。


「王族になろうと思っているの?」

「え……?」


意味のわからない事を言われて思わず足を止めて振り返った。夕陽に照らされた彼女の顔は私を見下すような、嫌な笑みを浮かべていた。


「侯爵家の人間とはいえ、元は下賤な平民でしょう? それにたかだか治癒魔法が使えるだけ。 貴女の黒目と黒髪は確かに目を惹くわ。 アレクサンダー殿下もそんな貴女が珍しいだけできっと直ぐに飽きるでしょうね。 だから夢など見ない事ね」

「どういう意味でしょうか?」

「身の程を弁えなさいと言っているのよ。 穢れた血は王家に必要ないものだわ」


そう言った彼女の髪の毛は夕陽のあたり、更に赤みを増していた。

穢れた血……その言葉に体が凍りつく。まるで魔法でもかけられたみたいに動かない。彼女の言う通り、私の体に流れる血は侯爵家のものでもなければこの世界のものですらない。穢れ……あの両親から産まれた私の血もきっと穢れてる。この世界に来てからあまりにも幸せで忘れそうになる。


「レイラお嬢様!」


サラの声にハッとなる。

もう深紅の聖女はいなくて、広い庭園には私だけになっていた。


「中々お戻りにならないので心配いたしました。 まぁ! こんなに冷えて!」


サラのあたたかい手が私の冷え切った手を包み込む。


「それに顔色も……早くお部屋へ戻って温まりましょう。 お食事も直ぐにご用意いたします」


サラの手をギュッと握った。


「迎えに来てくれてありがとう」


子供みたいな事をしていると思いながらも、サラの手を離せなかった。けどサラは何も言わずに繋いだままでいてくれた。



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