「どうしたの?なにかくれるの?」

「ん!あえゆ!」



あげる、と差し出された右手に私も右手を開いて応えると、手のひらには個装されたチョコレートがひとつ乗せられた。



「チョコレート?いいの?ありがとう」



かわいいプレゼントに思わず笑顔になる私に、花乃ちゃんも「えへへ」と嬉しそうに笑った。

その満面の笑みからは、中村さんや奥さんから一心に愛情が注がれているのだろうあたたかさを感じた。



「……いいですね、結婚って」

「うん、いいよ〜。結婚は人生の墓場、なんて言う人もいるけど、俺は毎日最高に幸せ」



思わずつぶやいた言葉に、中村さんは顔の表情を緩めながら言う。



「でも結婚ってしようと思ってする人もいれば、いろんなきっかけや縁で巡りあう人もいるから。

沙智ちゃんにもきっといつか、『この人と結婚したい』って人と巡りあうときがくるよ」

「そう、ですね」



いつか誰かと出会って、恋をして。

そんな未来を想像できるくらいに気持ちが前を向けているのは、あなたのあたたかさのおかげ。



愛がなくても生きていける、そう言う人もいるのかもしれない。

だけど私は、母や叔母、看護師さん、そして中村さん、たくさんの人の温かさを知っているから。

受けた愛を、私もいつか誰かに与えたい。

そう思うようになった。



いつか、誰に届くかなんて今はまだわからないけれど。



「はい、お待たせ。お母さんによろしくね」

「はい」



中村さんが笑顔で差し出したのは、桜をイメージしたようなピンク色の花をメインにした柔らかな色合いのブーケ。

私はそれを、両手でそっと抱きしめる。



「中村さん。私…….中村さんみたいな人になりたいです」

「俺?」

「はい。中村さんみたいな誰かの心を照らせるような、愛のある人に。私もなりたいって思います」



伝えた気持ちに、中村さんは照れながら嬉しそうに笑ってみせた。



この恋は叶わないまま、いつか思い出になっていく。だけどきっと、心の中で彼はずっと特別な存在のままだろう。

恋じゃなくなっても、『大切な人』としてこの胸に残り続ける。



支払いを済ませ、私は花屋をあとにするとよく晴れた5月の青空を見上げた。



春が過ぎ、夏が来る。

短い秋と厳しい寒さの冬が過ぎれば、まためぐって春が来る。



そして桜の花を見るたび、私は何度だって思い出すだろう。

優しい母と、彼の手のぬくもりを。






end.