白豚王子育成計画〜もしかして私、チョロインですか?〜


 この王子、体型の割に行動が早いのが長所である。
 だから早速朝食の後から、剣の訓練をすべく兵士の訓練に参加することにしたらしい。

 なので私も屋敷に帰る前に(どのみち入浴の付添いがあるから、運動が終わるまで帰れないのだが)、見学させてもらったところ。

「てやああああああああああ!」

 発声練習の甲斐あって、たかが素振りでも威勢だけはいっちょ前だ。
 ただし肝心の剣はすっぽ抜けて、明後日の方向に飛んで行ったけれど。

「あれ?」

 王子は目を白黒させながら、何も握っていない手をグーパーさせた。

「ねぇ、リイナ。僕の剣はいつの間に透明になったのかな?」

「……すごい魔法ですね」

 こんなやり取り、もう三回目。

 周りの兵士さんたちも相手が王子だからさ、白々しい笑みを浮かべることしか出来ず。

 私はこっそりため息を吐いて、「リイナに褒められちゃった」と浮かれているエドに切り出した。

「エド。今日はここで家に帰らせても宜しいでしょうか?」

「え? 大丈夫? 具合悪い? 医務官呼ぶ?」

「いえ……少々疲れただけですから」

 ワタワタと心配しているエドを何とか宥めて、

「では、エドはこのまま訓練、頑張ってくださいね」

 と、私はエドの不安そうな視線に突き刺されつつ、その場を後にしたのだ。




 王子に対して物言える相手は、なかなかいない。
 王子に注意したくても、基本的に誰も出来ない。

 だから、そんな裸の王様であるエドワード王子に、お友達を作ってあげよう大作戦!

 ほら、よくあるじゃない? 女の子が男装して、王子様の友達になっちゃうやつ。大抵は身分とかの垣根を越えて、お互い気を許せるようになって、注意したり、悩みを聞いちゃう的な。

「――ていうわけで、服を貸して下さい!」

「やなこった」

 厨房裏でいつも芋の皮を剥いているショウを捕まえ、熱弁すること数十分。
 私の努力は、あっさりと打ち砕かれた。

「え、ショウさん薄情!」

「むしろ気遣いに感謝してもらいたいくらいだ」

 呆れ顔で言うショウは、芋を剥く手を止めた。

「なに? 王子の婚約者が城の中を小姓のフリでもして歩き回るの? それ、バレたらどうなると思う?」

「えーと……怒られるとか?」

「きみが勝手に叱られたり泣いたりするのは、自業自得だからいいんだけどさぁ」

 あ、この人。結構手厳しいぞ。
 こんな塩顔おれ無害だよって顔しておいて、かなり口が立つしシビアな性格の人だぞ多分。

「エドワード王子の評判が落ちるかも、とか考えないのか?」
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