望まない結婚なので、3年以内に離婚しましょう。


 ようやく家に着き、ドアを開けて中に入った時、玄関に知らない靴があることにすぐ気がついた。

 底が赤いハイヒールは明らかに女性のもので、もちろん私のものではない。


 もしかして、また郁也さんが同僚を呼んでいるのだろうか。

 けれど連絡は入っていないし、リビングの明かりはついていない。


「何この匂い……きつい」

 さらに玄関には、きつい香水の匂いがして、何となく女性の正体が誰なのかわかった気がする。


 鉢合わせたくないため、急いで靴を脱ごうとしたけれど、タイミング悪く地下への階段から足音と話し声が聞こえてきた。


「いいじゃない、今日ぐらい泊まっても」
「ダメだ。もうすぐで相手も帰ってくるだろうし」

「もーケチだね。相手も良いって言ってるんでしょ?」
「また今度時間作るから」


 甘ったるい女性の声に、いつになく優しい声音の郁也さん。

 その二人の姿がようやく視界に映る範囲まで現れ、ようやく捉えることができた。


「お前、帰ってきたのか」
「……はい」

 真っ先に郁也さんと目が合い、彼は驚いたような表情をして口を開いた。

 私が帰ってきたら何か不都合なことでもあるのだろうか。そもそもここは私の家でもあるというのに。


「ねぇ郁也、もしかしてこの女が結婚相手?だとしたらすごく子供っぽくない?」


 気まずい空気が流れていると、今度は女性が私を指差して話し始めた。

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