双生モラトリアム
本当じゃない


……なんでだろう?
立花先生の、あの目が忘れられない。
いつか、どこかで見た気がした。



(また、メントールの匂い……)

樹はことが終わった後、必ず煙草を吸う。
私は煙草が大嫌いだったし、何度も止めてと伝えたのに。聞いてくれなかった。
彼が煙草を嗜むなんて、この関係になるまで私も知らなかった。少なくとも、舞やお母さんの前で吸った事を見たことがない。当然、私の前でも。


樹と知り合ったのは、私が先だったと思う。

まだ幼稚園児だった私は、のんびりした楽天家で。今ほどひねくれてはなかった。
双子の舞も、たまに一緒に遊ぶ時もあったけど。そう言えば当時、舞は病気がちだった。しょっちゅう熱を出しては幼稚園を休み、ひどいアレルギーで毎日のように病院に行く日々。
お父さんは出張ばかりで留守がちだったし、お母さんは弱い舞に付きっきり。近所に同い年の子どもはいなくて。つまらなかった私は、しょっちゅう団地の公園で一人遊びをしてた。
建て替え前のわりと古い団地だったから、同世代の子どもが少ないのは当たり前だったけど。

そんな時だった。珍しく、年が近い男の子を見つけたのは。
彼は、古びた建物にいた野良猫にこっそりと給食の残りをあげていて。
たまたま見つけた私に、「内緒にしてくれたら一緒に飼っていいよ」と約束してくれた。

それから、私もお弁当を残してこっそりと猫にあげるようになってた。

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