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「片岡さん、カウンターお願いね。」

「わかりました。」

昨日は早朝から叩き起こされ、その後も休まらない休日だったが、月曜日の今日、私は通常業務にあたる。

働き始めて丸二年。
疲れが残った日でも何とか仕事がこなせるようになっている。

大学の図書館と言っても、普通の図書館と仕事はあまり変わらない。
貸し出しの手続きをしたり、返却された本を書架に戻したり、傷んだ本を治したり、蔵書の管理をするのが主な仕事だ。

ただ、普通の図書館と違う点は、先生たちが大学を通じて購入した雑誌や学術書など、本の形態をしているものは全て図書館に送られてくる点だ。

それを大学の研究室や、附属病院の各部門に分けて配達して回る、これが本当に大変な作業なのだ。

なぜ図書館に送られてくる?

自分が頼んだものは自分で管理しろと声を大にして言いたいところだが、どこに何の本があるかを図書館で把握していれば、△△の本を読みたいんだけど、と相談があれば、図書館の蔵書になくても、○○先生のところにありますよと教えることができるからだそうだ。

購入した本代は大学持ちなんだし、みんなで貸し借りができれば、経費削減になるでしょってこと。

大学側に取って、この制度はいいことなのだろうけど。

毎日のように大量に送られてくる本や雑誌をパソコンに記録し、部署ごとに仕分け、台車に乗せてガラガラと配達して回る。

この作業は当番制にしていて、私たちは「デリ番」(デリバリー当番の略)と呼んでいた。

ガラガラと大きな音を立てる台車はかなりの年代物で、四歳年上の先輩 である宮脇もみじさんと私は「デリ蔵」と名前をつけて、アブラを差し、労りながら使っていた。

私はデリ番が本当に嫌いで、当番がある日は、「あーっ、かったりー」と心の中で溜め息をつくのだ。

逆に、もみじさんは、この作業が好きらしい。

「だって!ドクターと知り合うチャンスじゃない!」
と鼻息を荒くして言うのだ。

司書は年配の人が比較的多く、もみじさん(28歳)と私は若手に分類される。

もみじさんは、医科大学の図書館司書になれたことを大チャンスと思っていて、何がなんでも医者をゲットするつもりなのだ。

「莉子ちゃん!あなたも頑張るのよっ!」
相変わらず鼻息が荒いが、全く興味がない。

私にとって、医者はすなわち柳田家そのものだ。

とてもじゃないが、お知り合いになりたいと思う職業ではない。


今日もデリ番で、ガラガラとデリ蔵を押しながら、キャンパスの中を歩いていると、

「すごい音だな。もっといい台車使えよ。」

聞きなれた声が聞こえた。

そう。この職場の一番の欠点は、デリ番が面倒とかではなく、天敵 柳田凌介が附属病院の心臓外科に勤務していることだった。