熱い熱がたまる
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野球のチケットをもらった

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「ごめん! 勿体無いし、もらってくれない? 」


仕事おわりの金曜日。
友達のまゆ子が、頭を下げながら、白い封筒を出してきた。


「えっ? そんな、頼まれるようなもの? 」


と聞いた。

お願いされて、逆に何かもらうみたいだ。


「もちろん、ただでいいから! 」


急に用事でいけなくなったそうだ。


受け取って封筒を開いたら、野球のチケットが一枚。


「カレシと行くはずだったんだけど、お互い用事が入っちゃって!
空いてるかな?
明日の、デイゲーム」


申し訳なさそうにしながら、舞香に週末、何の予定も入ってない事ぐらい知っているのだ。
今週だけじゃない、
ほとんどずーっと。
予定はない。
カレシがいた事もない。


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前田舞香(まえだ まいか)は入社2年目。
同僚の正岡(まさおか)まゆ子とは、入社式の時から気があって、今では社内で唯一の親友だ。

そんなに規模の大きな会社ではない。

出会う人にはすでに出会ってしまっている。
今後、交友が広がるはずもないから、その中でも気の合う親友ができたのは、幸運だった。
毎日同じメンバーと顔を合わせ、学生のように卒業もなく、ずっと会社に務める予定だから。

社会人になってから思ったより出会いなんてない。

まゆ子がいるし、学生時代の友達も、数人いるし、不満はないけど、新しい出会いをしようと思ったら、それなりに何かを始めたり努力しないと、全然そんな目には合わないんだなって分かった。

まゆ子からもらった野球のチケットは、まゆ子がカレシと行くはずだったもの。

まゆ子は高校の時から付き合っているカレシさんとすごくラブラブで、シーズン中はカレシさんの趣味の野球に、毎週行ってるんだって。

舞香は野球観戦は初めてだった。
貰わなければ、行くこともないだろう。
何でも、チャンスがあれば基本やってみた方がいい。


「うん、ありがとう、行ってみるね」


と言って、チケットを受け取った。


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