泣きたい訳じゃない。

突然の出張

また、一週間が始まる。

月曜日の朝、会社に着くとすぐに課長から会議室に呼びだされた。

朝から呼ばれる話なんてあったかな？
何か失敗したかな？

私はドキドキしながら、会議室のドアを叩く。

「おはようございます。」

「おはよう。渋谷さんはいつも頑張ってるね。」

「ありがとうございます。」

まさか、月曜日の朝の忙しい時間に、そんな事を言うために呼び出すはずもない。
取り敢えず、怒られることはなさそうだけど。

「課長、ご用件は何でしょうか？」

「渋谷さん、急なお願いで申し訳ないのだけれど・・・。」

課長が口籠るなんて、それなりの事なんだろう。

「何でしょうか？」

「あの、ロスに長期出張に行ってもらえるか？」

「ロスに？長期出張？」

想像をはるかに超えたお願いだった。
課長の言葉をただ繰り返してしまう。

「そう、渋谷さんにロスでサポートをしてもらいたい。」

「ロスのサポートなら今もしてますけど。」

「今回は、現地でのサポートが必要なんだ。」

「長期出張ってどれぐらいですか？」

「まだ分からないけど、一ヶ月ぐらいかな。」

突然、ロスに一ヶ月ってことだよね。
そんな話ある？

「何故ですか？」

「実は、現地の谷山君の親御さんが前から病気を患っていて、帰国の希望を聞いていた。今期で一旦、帰国の予定だったんだけど、それが夏を越せないと医者から言われたらしくて。」

ロスからじゃ何かあってもすぐには駆けつけられない。

「今はシーズン中だし、長期の休暇となると、人員補充をしないといけないが、すぐに見つかるものでもないから。」

「そうですか。」

「谷山君は日本では出社できる様だから、渋谷さんのこちらの仕事は彼にやってもらって、入れ替わりで、渋谷さんにロスに行ってもらえればというのが会社の希望なんだよね。」

「そうですか。」

確かに、この会社でロスの事情を現場レベルで把握しているのは、現地メンバー以外では私だろう。