朝戸風に、きらきら 4/4 番外編追加
恋心に、ゆらめく


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コーヒーを持って行ってから2時間ほど経った頃。

パソコンでの打ち込み作業を続けていると、視界の端で那津さんがアノラックパーカーを羽織ろうとしているのが映った。

クライアントのところに行くにしては軽装だと不思議に思い、その姿を見ていると、向こうも私に視線を合わせてくる。


「…?どこか行かれるんですか。」

「ちょっと買い出し。」

「え。何か必要なら私が行きます。」

「買い物くらい俺も行けるわ。」

「……そうじゃなくて。」


立ち上がって反論の始まりを伝えても、その後がうまく繋がらない。かわして、ふと笑われてしまう。



「…お前は店番してて。」

「店番て。」


此処は、いつからお店になったのだろう。
突っ込んでも、何も気にしない男はからりと笑ってそのまま家を出て行ってしまった。



ぽつんと急に1人になった空間でその場に立ち尽くす私は、あの忙しい男の抱える仕事において、何も役に立たない。


"アシスタント"なんて名ばかりだ。
何一つ、その呼称に見合う仕事は出来てない。




フリーランスになったからには、
クライアントを集めるところから重要になる。

今は、那津さんがこの数年間で得たツテを頼って、依頼の大小に関わらずこなしているカタチだ。


今後の"顧客"を獲得するために、無理をして毎日製作に励んでいるのは、さすがに私でも分かっていた。

あの人はきっと、クライアントの無茶な要求にも、無理をして対応している。



そんなことが重なれば当然、ひとつひとつの仕事の負荷は大きくなる。

デザイナーとしての仕事だけじゃなくて、依頼主との密な連絡、細かな調整、それこそ今後もっと必要になる新規開拓の営業だって。

那津さんは、全てを1人でやろうとしている気がする。




こんな過酷なスケジュールをずっとこなしていたら、きっとあの人は倒れてしまう。

彼は私に、広告代理店で働いていた頃のような仕事は依頼してこない。

それこそアカプラとして営業をして欲しいだとか、
そういうことは一切、言われていない。



『お前はやらなくて良い。』


私も何か手伝いますと伝えても、笑って断られてしまってからは、それ以上言い出せなくなった。


戦力には、数えてもらえない。


そんなの、ただ居座るだけの、なんの実力も持ち合わせない私には当然なのに、一丁前に痛む胸だけは存在してることに嫌気がさす。


____彼を本当の意味で支えられる部下は、
何もできない「私」じゃない。

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