アンチテーゼを振りかざせ
These02.

______________

______



あれから、数週間。

私は変わらず家に帰った後は当然干物化して、最寄りのコンビニへそこそこの頻度で深夜の買い出しに出かける。


夜中を中心にシフトに入っているらしいあの男と遭遇することも、勿論あって。


「ほーしろサン。」

「……。」


休憩が被る時は、自分用の炭酸飲料だけでなく、勝手に私の缶ビールとサキイカをひょい、と奪ってさっさとレジへ向かう男に焦っても、どこ吹く風で。



「…こういうの、やめて。」

「気にしなくて良いけど。
"話し相手になってくれてありがとう"代だし。」

私の大好きなそのセットに、無茶苦茶な命名をしてそう言う男に振り回されている自覚はある。


コンビニと隣のビルとの間の薄暗い路地。

時間にしたら、たった数十分。

お金を渡そうとしても受け取らない男に諦めて缶ビールを一口飲んでいると、すぐ隣からの視線に気づいた。


「……何。」

「いや、こんなに色気無くせるもんかと思って。」

そう問えば楽しそうな声で、失礼な感想を告げられる。


「喧嘩売ってんの?」

メガネ越しに睨んでも、微かに遊ばせるように空気を揺らす男は、全く堪えていない。

そのまま腰を折って私の顔を近い距離で覗き込む瞬間、白に近いアッシュがふわりと揺れる。


「んーでも、顔は清楚つくりこんでる時とそんな変わんないな。」

「……喧嘩売ってんの?」

「どっちにしろ怒るのかよ。」

観察結果に不服そうにそう言えば、男は吹き出して笑う。


___時間にしたら、本当に、たった数十分。



「ほーしろサンさ、社会人何年目?」

「……2年目だけど。」

「ふーん。大変そう。」  


他人事のようにそう漏らす男をなんとなく見つめる。

居酒屋とコンビニのアルバイトを掛け持ちしているこの男。

歳は私とそう変わらなく見えるけど、一体、


「…あ、俺に興味出てきた?」


そこまで密かに見つめて考えていた思考をお見通しかのように、口角を上げて伝えてくる言葉を、無言でビールを仰ぐことで否定した。

「まあ、俺はただのフリーターだけど。」

「…ふーん。」

それだけ?と、特に深掘りしようとしない私に、男はただ三白眼を細めていた。




この時間は、この男は、なんなのか。

特に深い話をするわけでも無い缶ビール1本分の時間は、違和感を残しつつも、それでもしっかりと、私の中で不可思議に刻まれていた。








< 36 / 203 >

この作品をシェア

pagetop