この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
DESTINY

恋心は捨てて


 
 「よろしいのですか? 静様、お決めになって…」

「...お祖父さまとお祖母さまに長年仕えた白河さんならわかるでしょ?
高瀬(たかせ)のおじさまのお申し出は、ありがたいお話だわ。」

「確かに… 恒一郎(こういちろう)様の借金の後始末をして下さるとの事ですが、
 その代りに竜平(りゅうへい)様と婚約して欲しいとはいささか…」

いつもは沈着冷静な白河清吾(しらかわせいご)が、眉間に深いしわを寄せていた。

「高瀬のおじさまが何をお考えなのか…私にはわかりません。
 今回の事に、おじさまの責任は無いのですもの。」

「静様…。」
 
「古美術商を紹介して下さったのは、おじさまのご厚意よ。
 お祖父さまが認知症だったなんてご存知なかったはずだし…。」

「私共も、世間には隠しておりましたから。」

「 私たちがきちんとお祖父さまを見ていなかったから
 あんな高価な買い物をして、借金を作ってしまったの。」

後悔に震える静を見るのは、白河には辛かった。
だが、幼い頃から世話をしてきた彼には静の気持ちも理解できた。
静にとって、この『婚約』は苦渋の選択なのだ。

「だからと言って、我が華宵(かしょう)流お家元のお身内にあたる静様を
 借金返済の担保代わりにするなんて…あり得ません。」

「この婚約話、お祖父さまの作った借金のことを
 お祖母さまに内緒にするには丁度いい隠れ蓑になるわね。」

 小松原 静(こまつばらしずか)は自嘲気味に、ほんの少し微笑んだ。



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