研究員たちの思春期〜恋の仕方が分かりません!〜

3.論文居残り

研究室に院生10人。

皆黙々と論文を打ち込み続けて早8時間。
朝9時頃から来て、もう17時だ。

会話がほぼない。

「ねえ」と小声で隣の理仁に話しかける。
少し面倒そうにイヤホンを取って「ん?」と言ってきた。

「明日来てやってもいいよね、これ」

そう言うと、理仁がカレンダーに目を向ける。

「明日、研究棟開かないよ」
「えっ、なんで」

私もカレンダーを見て気付く。

赤い丸が土日の二日間に付いてる。
そして赤く書かれた「学祭」の二文字。

「そっか、明日学祭か」

サークルも入ってないし、学祭に出店するゼミでもないし、ずっと無縁な存在だった。
気付けば1年の時に行ったのが最後だ。

なるほど、研究棟が開かないから、みんな焦ったように論文を書いてるのか。

私も書かなきゃ。

そう落ち込んでいると、トントンと理仁から膝をつつかれる。

「行ったことある?」

小声で言ってきた。

「大学1年の時ちょっとだけ」

そう答えると、無意識に目が合う。

理仁の方が先に口を開いた。

「行ってみる?明日」

耳を疑った。
25年にして、人生初「好きな人からのお誘い」。

「うん」

なるべく嬉しさを表情に出さないように努める。

どうしよう、長すぎる学生生活も無駄じゃなかった。
まさか、大学生活7年目にして、好きな人から学祭に誘われるとは。

「よし、じゃあもうちょっと頑張ろ」

そう言って理仁がまたイヤホンを付けた。
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