愛することを忘れた彼の不器用な愛し方
ここから始まる


日下さんが私を抱きしめながら”ごめん”と何度も呟く。何に対しての”ごめん”なのか、私にはわからない。だけど抱きしめる力は強く、私のことを想ってくれていることだけは理解した。

「芽生、車に突っ込まれたって?」

「はい」

「ずっと会社を休んでいるって?」

「あー」

「大丈夫なのか?」

矢継ぎ早に質問され、私は目をぱちくりとさせる。こんなに慌てた様子の日下さんを見るのは初めてだからだ。

「えっと、正確に言いますと、信号無視した車が自転車に突っ込みまして、弾みで飛んできた自転車が私の足にぶつかったので足を骨折しちゃったんです。それで、松葉杖で出勤するのは大変だからって曽我さんが在宅勤務の許可をくださって。今も仕事をしていたところですよ」

「……骨折?……在宅勤務?……はぁー」

日下さんは私の左足に付いているギプスを確認すると、大きなため息をついて私の肩に顔を埋めた。

「日下さん?」

「芽生が入院でもしたんじゃないかと思って心配した」

「運良く植え込みに突っ込んだので、足の骨折だけですみました。それに、ちゃんと会社にはいいましたよ」

「そうじゃなくて、俺にも。俺にもちゃんと連絡をして。芽生のことが心配すぎてどうにかなりそうだった。寿命が縮まったよ」

「大げさですよー」

明るく笑い飛ばしてみたものの、日下さんの表情は硬い。

そうだ、よく考えたら数日前、日下さんに自分勝手な意見を押し付けて逃げたんだった。

……怒っている、よね?
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