1分で読める初恋短編集
18:絵画のような恋
「うわー、久しぶり」
 そんな言葉が所々で聞かれる会場。
 成人式以来の同窓会では、皆が自分の仕事や恋人の話をしていた。

 もちろん、私も。

「ルミは最近どうなの?」
 同じ部活だったアイリはひとしきり自分の結婚の話をし終えた後、左手の薬指にある指輪をちらりと見せるようにしてこちらに質問をしてきた。
「彼氏と先月籍入れたけど、同居はまだなんだ」
「えー、さみしくない?」
「まだ一緒に過ごしてないからそこまで思わないかな」
「そっかあ。あ、ナナはどう?」

 話が私からそれた後、ふと気になって会場を見渡した。
 そこに、私の好きだった彼がいた。

「いやー、もうすぐ俺もパパでさー」

 そんな声が聞こえる。

 私の遅い初恋の人。
 なにも言いだせなくて、ただ胸に秘めただけで終わってしまったあの恋は、今でも私の中にある。
 前に進むことも、後ろに下がることもなかったその恋は、色あせない美しい思い出のまま。

 捨てることはない、思い出の恋。

 そっと視線を外して、窓の外を見た。
 もし彼と付き合えてたら……なんて、もう思わない。
 私は、この初恋を誰にも言わないまま過ごしていくと思う。
 誰にも見られない、1人だけが見る絵画のようなこの恋を。
< 18 / 20 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop